鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

工藤會には「今でも?」、警察・検察には「ようやく?」:読書録「工藤會事件」

・工藤會事件

著者:村山治

出版:新潮社(Kindle版)

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工藤會の野村総裁・田上会長が2014年に逮捕(2021年に地裁にて総裁は死刑、会長は無期懲役の判決)された「頂上作戦」。

この「頂上作戦」の経緯及びその後の裁判戦略を中心に、工藤會の歴史や北九州における反社勢力の動きなどを絡め、工藤會が衰退していくまでを描いた作品。

 


僕は90年代に福岡で勤務した経験があるんですが(営業エリアの一部は北九州にもありました)、その経験に照らし合わせても、ここで描かれる「工藤會」の傍若無人ぶりには驚かされました。

メインの事件は2000年代以降に起きてるんですからね…。

起きてる事件の内容を読んでると、それこそ「仁義なき戦い」か、「虎狼の血」かって感じなんですが、事実としては「ついこの間」の事件という…。

 


対する警察・検察の対応も、2010年代に入るまでは後手後手…どころか「見込み違い」も甚だしい側面もあり(この点も、本書では厳しく指摘されています)、そのことが市民・企業の協力を遠ざけてしまい、さらに工藤會の跋扈を許す…という悪循環。

結局、2010年代に入り、警察・検察の双方が本腰を入れ、裁判対策を踏まえた捜査に切り替えたことで、ようやく成果に結びつけることができるようになっていきます。

ここで取られた方針は以下のようなもの。

 


<上野、上田は工藤會事件の捜査で、捜査側のストーリーに沿って供述調書を作るのではなく、客観的な証拠をもとに相手を説得し、納得ずくで、体験した事実を語らせる、という刑事手続きの原則に忠実な捜査を実践した。  

検事は、警察の捜査をチェックし、適正手続き遵守を指導する立場でもある。 2人は刑務所や警察署で、元組員らに対する自らの取り調べの一部始終を県警の捜査員に見せた。それが捜査員らのお手本となり、県警の工藤會捜査は、より適正手続きに沿ったものとなったとみられる。>

 


大阪特捜部の「冤罪事件」によって決定的ダメージを受けた検察サイドがたどり着いた手法がコレ。

…って、「今までやってなかったんかい!」って話ではあるんですけどねw。

 


それまでの警察の暴力団捜査というのは、本書でも言及のある「ドーベルマン刑事」のように、多少適法性に疑念があっても、「結果」さえ出せばいい…という強引なものがあったようです。

そういう手法はヤクザに対する牽制効果にはなる一方で、一定の「貸借」に立脚してるところもあるため、腐敗や見逃しも生みやすい構図を孕んでいた。

強引な捜査そのものが被疑者や被害者等との信頼関係を損ねてしまったという側面もあったようです。

「県警vs組織暴力」かい!

って気もしますが(あそこまで腐敗はしてないかw)、それが90年代ってのが何とも…って話です。

 


結局、70年代的な勢力構造と行動原理で動いていた「工藤會」を、2010年代にアップデートした警察・検察がようやく追い込むことができた…という構図だと思います。

(もちろん総裁・会長は控訴しているので、裁判闘争そのものは今後も継続することになりますから、これで「めでたしめでたし」という話ではありません)

 


現在の「工藤會」の状況は以下のように記されています。

 


<福岡県警が「頂上作戦」を始めた 2014年以降、工藤會組員の摘発は 7年間で延べ 434人に上った、と 2021年9月 12日の読売新聞は伝えた。 20年末の福岡県内の工藤會の構成員数(準構成員など含む)は 430人。ピークの約 3分の 1になった。そして「頂上作戦」開始以来、工藤會が関与したとみられる一般市民の死傷事件は 1件も起きなかった。「頂上作戦」によって、北九州市民の体感治安──安全・安心感は格段に改善された。>

 


本部があった建物や土地の解体・売却の話なども報道でされていますし、この指摘自体は確かなものではあるのでしょう。

 


反社勢力をどう追い込んでいくのか。

これはナカナカ難しいところがあります。

本書でも指摘されている通り、「頂上作戦」にしても、その見事の成果とは裏腹に、「推定」による認定をどう評価するかというのは、「反社」以外の諸団体のケースを想像すると、両手をあげて…と行かない面もあります。

追い込まれた反社勢力の構成員の「行き場」の問題はもっと大きいでしょうね。本書ではそれに取り組む人々の姿も描かれています。

それで全てが解決できるはずもないわけですが…。

 


九州に住んでいないと、ちょっとピンと来ない部分はあると思います。

それでも、新しい検察・警察の取り組みとして、興味深い内容ではありました。

「仁義なき戦い」にも「頂上作戦」ってあったけど、あれとはだいぶ違いますよw。

 


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