鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

この作家のモデルは…:読書録「一夜 隠蔽捜査10」

・一夜 隠蔽捜査10
著者:今野敏
出版:新潮社

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待望の「隠蔽捜査」シリーズ長編10作目。
神奈川県警刑事部長となってからは長編3作目(本作の前に短編集があります)になります。


有名作家・北上輝記が誘拐されたとの一報が竜崎の元に入る。
しかし誘拐犯からの要求はなく、誘拐の目的が何なのか、竜崎たちは悩む。
北上の友人のミステリ作家・梅林賢は捜査に協力しようと、竜崎に申し出、竜崎は彼の意見を聞くことにする。
やがて犯人から奇妙な要求がなされる。
一方、警視庁の伊丹は殺人事件を追っていたが、その事件がなぜか誘拐事件と絡んできて…


竜崎の息子の「大学中退」事件(w)も絡みつつ、公私にわたる竜崎の活躍が描かれます。
まあ、基本的に竜崎は竜崎なんですけど。


本作のポイントは、作家二人(北上と梅林)をめぐる文学論議…ですかね。
これは事件そのものにも絡んできます。
純文学作家の北上は梅林にこう評されます。


<文体も取り上げるモチーフも、会話も、北上は全て恰好をつけているんです。それに読者がコロリと騙されています。だいたいですね、六十過ぎた男が一人称に『僕』を使うんですよ>


60間近でプライベートの一人称が「僕」の僕としては頭を掻きたくなりますが、これってチョット「村上春樹」を連想させません?


一方、梅林はこう。(伊丹の発言)


<面白いんだよ、梅林賢明は。昔はアクションものなんて書いていたんだけど、最近は社会派ミステリを書いているな。刑事を主人公にした作品もあった。作品によって伝奇的な味付けがあったり、人情ものだったり、冒険小説だったり、バラエティー豊かで、楽しめる>


ん?これって「今野敏」自身?
そういや、村上春樹って今野敏より少し年上だけど、作家としてのデビューはホボ同じはずだから、もしかして…(村上春樹は79年。今野敏は78年デビュー)。
…って、まあここら辺は匂わせながらのサービスでしょうね。
おふたりが知己かどうかは知りませんがw。


(梅林はどうかわかりませんが、北上は純文学至上主義の、「村上春樹」とはスタンスの違う小説家として描かれます。まあ、村上さん、ハードボイルド小説とかお好きですし)


梅林が語る文学論議や出版業界の状況から、やがて明らかになる作家としての「ロマンティシズム」。
ここら辺が「読みどころ」ではないか、と。
逆に言えば、「隠蔽捜査」シリーズとしての「竜崎」の活躍を楽しむという趣向はちょっと後退してるかもしれません。
まあ、面白いんですからいいですけど、上司にも部下にも、今の竜崎は恵まれ過ぎかな?
同期の八島がつっかかってきてますが、インパクトに欠けます。


本作は本作として楽しませてもらいましたが、次作では警察組織の中での竜崎の活躍(苦闘?)を描いて欲しいな〜。
なんて思ったりもしました。
いやまあ、面白ければ別にいいんですけどね。そうじゃなくてもw。