『緊急取調室』は、シーズン1と2までは見ていたんですが、その後のシーズン3〜5やスペシャルドラマは全部を追えていたわけではありません。
ただ、今回の『劇場版「緊急取調室 THE FINAL」』がシリーズの完結編だということで、Prime Videoで見放題になっているのを見つけ、「まあ最後なら見ておこうか」と思って鑑賞しました。
結果としては、全部のシリーズを追えていなかった僕でも十分楽しめました。
もちろん長年見続けてきた人のほうが、登場人物同士の関係や積み重ねに対する感慨はずっと大きいでしょう。それでも、映画一本の物語としてかなりきちんと成立していたと思います。

取調室の映画なのに、やたらスケールが大きい
『緊急取調室』といえば、基本的には取調室という閉じた空間で、被疑者と言葉を交わしながら真実を引き出していくドラマです。
ところが今回、その相手がなんと内閣総理大臣。
超大型台風が日本を襲い、国家的な危機対応が続くなか、総理大臣・長内洋次郎に「空白の10分」が発生します。そして、その10分を追及する男・森下弘道が総理を襲撃。真壁有希子たちキントリが森下を取り調べるところから物語は始まります。公式にも、映画は12年間続いたシリーズの集大成として位置付けられています。
いやいや、取調室の話だったよね、と思うくらいスケールが大きい(笑)。
総理大臣、巨大台風、国家危機、政治権力。
でも不思議と『緊急取調室』から離れた感じはしませんでした。
結局のところ最後にやることは、相手の肩書きを全部剥がして、取調室の中で一人の人間として向き合うことだからです。
「過去に罪を犯した有能な政治家」をどう扱うのか
一番面白いと思ったのは、事件の謎そのものより、この映画が突きつけてくるテーマでした。
長内は過去に重大な出来事に関わり、その事実を仲間たちと隠してきた人物です。
しかし、その後は政治家となり、最終的には総理大臣まで上り詰めています。
しかも単なる悪徳政治家として描かれているわけではありません。
現実に国家の危機に向き合い、国民のために判断し、リーダーシップを発揮する人物でもある。
ここが面白い。
つまり映画が問うているのは、
過去に重大な罪を犯し、それを隠した人間が、その後は社会にとって有能で必要な人物になっていた場合、それでも過去の罪によって断罪されるべきなのか。
という問題です。
簡単な話ではありません。
「罪を犯したんだから裁かれて当然だ」で終わらせることもできる。
でも一方で、その人間が今まさに大勢の国民を守る責任を背負っていて、実際にその仕事を果たしているとしたらどうなのか。
長内自身もその論理に立っています。
だからこそ、単なる「悪い総理をキントリがやっつける」という話にはならない。
ここにはかなりちゃんとした葛藤があります。
シーズン1に戻ってくる構造が面白い
特に感心したのが、このテーマがシリーズの原点につながっていることです。
シーズン1では、真壁有希子の亡くなった夫・匡が、警察内部の不正を暴こうとしていたことが物語の重要な軸になっていました。
真壁を警視庁に引き上げた上司でもある郷原政直も、その不正や隠蔽に深く関わる人物として登場します。真壁にとって郷原は、刑事としての恩人である一方、夫の死につながる警察組織の闇を象徴する人物でもあります。真壁自身も、夫が警察内部の不正を暴こうとして亡くなったことから、「身内だから信用する」という立場には立てない人物として描かれてきました。
つまりシリーズの最初からあったのは、
組織を守るためなら、真実を隠していいのか。
という問いだったんですよね。
警察組織の上層部が腐敗しているとき、その組織に属する人間はどう行動すべきなのか。
それがシリーズ最終作では、一気に国家レベルまで拡大されます。
今度の相手は警察の幹部ではない。
国のトップである総理大臣です。
でも問われていることは、実は同じなんですよね。
権力や肩書きよりも、真実を優先できるのか。
組織や国家にとって「必要な人物」であることが、個人の罪を免責する理由になるのか。
シーズン1で始まったテーマが、最後に最大のスケールになって戻ってくる。
これはかなり見事なシリーズ構成だと思いました。
郷原が出てくる意味
だから、今回の映画に郷原(草刈正雄)が再登場するのも単なるファンサービスではありません。
僕はシーズン1を見ていたので、ここは結構響きました。
郷原は真壁にとって、警察という組織の矛盾そのもののような存在です。
真壁を刑事として評価し、引き上げた人物でありながら、同時に夫の死につながる不正と隠蔽にも関係している。
その郷原が、シリーズ最後の「総理大臣を取り調べる」という事件に再び関わる。
これはかなり象徴的です。
真壁は12年間、結局ずっと同じ問題と戦っていたとも言えます。
組織の論理と、個人としての正義。
相手が警察でも総理でも、その問い自体は変わらない。
難産だった映画を、それでも完成させた意味
この映画は制作そのものもかなり大変だった作品です。
もともと2023年公開予定だった劇場版は公開延期となり、その後、石丸幹二を長内総理役として新たに迎えて再始動しました。再始動に際しては脚本も大幅に改稿され、再撮影が行われています。
当初の総理役は市川猿之助でした。
まあこのテーマですからね。
コリャ使えない。
そこから公開延期、キャスト変更、大幅な撮り直し。
普通なら、そのままお蔵入りになってもおかしくないくらいの事態だったと思います。
それでも制作陣やキャストが「シリーズをちゃんと終わらせる」という方向を選んだ。
実際、天海祐希も再始動時のコメントで、スタッフ・キャスト一同が映画を観客に届けたいと思い続けていたことを語っています。
この映画を見終わると、それだけのことをしてでも世に出したかった理由は分かる気がします。
単なる劇場版の一本ではなく、12年間続いた作品の「終わり」をちゃんと作る必要があったんでしょうね。
大杉漣がいない寂しさ
一方で、どうしても寂しいのは大杉漣さんがもういないことです。
初期のキントリでは、大杉漣演じる中田善次郎、小日向文世演じる小石川春夫、でんでん演じる菱本進らの掛け合いが、作品の大きな魅力でした。第1話から、このクセの強いメンバーたちと真壁がぶつかりながらチームになっていくところがシリーズのスタートでした。
だから、本当なら最後にあのメンバーが全員そろっているところを見たかった。
それはもうどうしようもありません。
でも、だからこそ残ったキャストとスタッフでシリーズの最後までたどり着いたこと自体には意味があると思います。
制作側にも出演者にも、それぞれこの作品に対する思いがあったんでしょう。
そういう意味でも、それに応える形の最終作にはなっていたと思います。
もちろん突っ込みどころはある
もちろん、映画として突っ込みどころはかなりあります(笑)。
現職総理をどうやって取調室まで連れてくるんだとか、25年前の事件の証拠はそれで大丈夫なのかとか、森下の計画はあまりにも回りくどくないかとか。
現実の警察捜査として考え始めると、相当に無理があります。
ただ、このシリーズはもともとリアルな捜査手続を精密に描くドラマではなく、
取調室という密室で、人間の嘘や本音を剥がしていく
ことを中心にした作品です。
公式も「取調室」という密室で行われる、生身の人間同士の心理戦をシリーズの基本として説明しています。
だから最終作としては、リアリティを多少犠牲にしてでも、
最後に総理大臣を取調室に座らせる。
これをやりたかったんでしょう。
その選択はアリだと思います。
シリーズを追った人向け。でも一本の映画としても成立している
僕自身、シーズン1、2までは見ていますが、シーズン3、4、5やスペシャルを全部追っているわけではありません。
実際、『緊急取調室』は2014年の第1シーズン以降、連続ドラマ5シーズンとスペシャルドラマを重ねて、この映画で12年間のシリーズを完結させています。
なので、当然ながらシリーズをずっと追ってきた人向けの作品ではあります。
キャラクター同士の関係や細かな回収については、僕が気づいていないものもかなりあるはずです。
だからといって、
「じゃあシーズン3から5まで全部見直そう」
とは、さすがにならない(笑)。
ただ、シーズン1を見ていたことはかなり大きかったですね。
真壁の夫のこと。
郷原との関係。
警察という組織に対する真壁の距離感。
そこを知っていれば、この映画が単なる「総理大臣VSキントリ」ではなく、シリーズの原点に戻っていく物語だということは十分理解できます。
『踊る大捜査線』より単体映画としてまとまっていた
最近『踊る大捜査線』シリーズも見返していたので、どうしても比べてしまいます。
もちろん作品の方向性はかなり違います。
ただ劇場版単体の作品としての完成度という意味では、今回の『緊急取調室 THE FINAL』のほうがまとまってますわね。
『踊る』は長年の人物関係やシリーズの積み重ねが非常に大きく、その文脈込みで楽しむ作品です。
それに比べると『緊急取調室 THE FINAL』は、
長内と森下の25年前の事件
という映画独自の軸が一本通っています。
だからシリーズを全部知らなくても、とりあえず一本のサスペンスとして追える。
そのうえでシリーズを知っている人には、真壁や郷原、キントリというチームが積み重ねてきた12年間が重なってくる。
その二重構造は、なかなかうまくできていたと思います。
最後まで「正しさ」を簡単に決めない
この映画で一番評価したいのは、結局ここです。
テーマに対して簡単な答えを出していない。
長内の過去の罪は消えない。
隠蔽も正当化できない。
でも、その後の彼が政治家として国民のために働いてきたことまで全部嘘になるわけでもない。
この二つは同時に成立するんですよね。
人間は「善人」か「悪人」か、そんな簡単には分けられない。
過去に罪を犯した人間が、その後に善いことをすることもある。
逆もある。
そのとき社会は、その人間をどう扱うのか。
そして本人は、自分の過去とどう向き合うのか。
映画は最終的に、司法的な決着以上に、本人が自分の罪と向き合うことを重要なところに置いています。
この結論には異論もあるでしょう。
「そんなことで済むのか」と思う人もいるでしょうし、僕自身、全面的に納得しているわけではありません。
でも、そういう異論が出るところまで含めて、映画のテーマとしては面白かった。
ただ悪人を倒してスッキリ、ではなく、
「では、正義とは何なのか」
という少し面倒なものを最後に残して終わる。
シリーズ最終作として、これは悪くない終わり方だったと思います。
いろいろ突っ込みながら見ましたが、それでも最後には、
「ちゃんと終わらせたな」
という感覚が残りました。
全部のシリーズを追い直すところまではいかないけれど(笑)、12年間続いた『緊急取調室』の最後を見届けておいてよかった。
そんな作品でした。
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