鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

パラレルワールドものとは思ってなかった(面白かったけど):読書録「ジェリーフィッシュは凍らない 」

・ジェリーフィッシュは凍らない
著者: 市川憂人 ナレーター: 下山吉光、浅井晴美
出版社: 東京創元社(audible版)

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ちょっとAI関係の方が多かったんで、SFっぽいところから離れてミステリーでもと思ってチョイスした作品。
1983年を舞台にしたパラレルワールドもののSFミステリーでした…
いや、面白かったからいいんですけど。


<概要>Amazonより
小型飛行船で起こる、連続殺人の驚愕の真相!
21世紀の『そして誰もいなくなった』と好評を博した、第26回鮎川哲也賞受賞作

特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船〈ジェリーフィッシュ〉。その発明者のファイファー教授を中心とした技術開発メンバー6人は、新型ジェリーフィッシュの長距離航行性能の最終確認試験に臨んでいた。ところが航行試験中、閉鎖状況の艇内でメンバーの一人が死体となって発見される。さらに自動航行システムが暴走し、彼らは試験機ごと雪山に閉じ込められてしまう。脱出する術もない中、次々と犠牲者が。21世紀の『そして誰もいなくなった』登場! 第26回鮎川哲也賞受賞作にして精緻に描かれた本格ミステリ。


事件の概要は、上記の通り。
飛行船の中での事件の進行と、事件後、刑事コンビ(マリアと蓮) が捜査を進める様子が並行して描かれています。
この刑事コンビがなかなかいいんですよ。
だらしないけれども、勘の鋭い美人女性刑事と、その部下の冷静で、クールな日系人刑事
この作品以降、何冊かこのコンビでのシリーズが続いているようです


ミステリーとしてはどうでしょうね。
SF設定がトリックに絡んでくるところがあるので、それをどう評価するか
バリバリのSF設定って言うわけでもないんですけど。
ただまぁこんな風じゃないと新本格推理って成立しづらくなってきてるのかもしれないなぁとはちょっと思いました
僕自身はSFには抵抗感がないので、楽しく読むことができましたけどね。


続編もAudibleになってるようなので、機会を見つけて聞きたいと思います。

う〜ん、「AI」である必要性は薄れてるかも。:読書録「犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー 探偵AI 2」

・犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー 探偵AI 2
著者: 早坂啓
出版: 新潮文庫nex(Kindle版)

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「AI法廷の弁護士」を読んだときに、
「そういえばAIが探偵役をやってる小説を読んだことがあったなぁ」
と思い出してチェックしてみましたが、これでした。
https://aso4045.hatenablog.com/entry/2018/06/21/180637(https://aso4045.hatenablog.com/entry/2018/06/21/180637)
ほとんど記憶はないんですけど、なかなか面白かったような印象があったので、続編を読んでみることにしました。


<概要>Amazon
探偵AI、敗北!?
賢くて可愛い人工知能〈犯人〉以相(いあ)の、探偵を翻弄する大逆襲劇スタート!!
「本格ミステリ」×「人工知能科学」
奇想とロジックが宙を舞う超絶推理バトル、待望の続編!!

人工知能探偵・相以(あい)の驚異的な推理力に大敗を喫した以相(いあ)。復讐に燃える彼女は、人間の知能を増幅(Intelligence Amplification)させ完璧な共犯者を造り、相以に挑戦状を叩きつけた。ゴムボートで漂着した死体、密室で殺された漁協長、首相公邸内殺人事件。連鎖する不可解な事象を読み解く一筋の推理の紐は、なんと以相の仕掛けた恐るべきトリックの導火線だった!? 現代の“ホームズ"VS.“モリアーティ"本格推理バトル再燃!!


あらすじの通り、なかなか派手な展開の小説でした。
そういえば前作もテロリストとかいろいろ出てきて、派手っちゃ派手だったんですよね。
ただ前作については「<リアルな事件>をディープラーニングする」みたいな展開になっていて、フレーム問題とか不気味の谷現象なんかが取り扱われてて、「AI」が探偵役であることの意味っていうのがしっかりあったと思うんですけど、本作になるとあまりその意味っていうのは薄れているように思います。
「トロッコ問題」なんかへの言及はあるんですけどね。


そのかわりどちらかと言うと「AI」がどこまで人間的になれるかみたいなところに踏み込んでるのかなあって言う気もします。
個人的にはあんまりそっちのほうは興味ないんですけど、エンタメ的にはそっちの方が面白いっていうのはあるんでしょうかね。


僕としては、むしろ被疑者になるマザコン三兄弟のキャラクターの偏り具合とかが面白くて、そっちの方が興味深かったです。
この展開だと続編には登場しないのかなあ。
ちょっともったいない感じ。


また何冊か続編はあるようですけど、うーん、どうしようかなぁ。
面白いと言えば面白いので、Audibleとかになったら聞いてもいいかもしれません。

自分としても区切りをつけたかったので:読書録「小山田圭吾 炎上の「嘘」」

・小山田圭吾 炎上の「嘘」  東京五輪騒動の知られざる真相
著者: 中原一歩
出版: 文藝春秋(Kindle版)

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どうにもこうにもすっきりしない気持ちが残っていたので、自分自身に一区切りをつけるために読んでみた作品。
いじめの対象となったと言われる人への取材ができていないので、そういう意味では完璧ではないけれども、このタイミングで書かれてものとしては最もバランスが取れていて、丁寧な内容になっていると思います。
(あの炎上の状況を考えると、いじめの対象になった人が取材の対象になること自体が良いことだと思えないと言うのもありますしね)


主なポイントは以下かなと考えています。


①小山田圭吾が記事の内容になったような行為を行ったことについては、1部は事実。
その点に関しては「いじめ」と今から見れば言われても仕方がない部分があると小山田サイドも認めており、反省している。
ただし自分が行っていないことや混同させるような内容があることも小山田サイドが主張しており、この点は同席した目撃者の証言からもほぼ信用しても良いと思われる


②記事が書かれた時期や媒体の性質から行ってある意味「悪ノリ」の部分があったのは確かと思われる。
その点に関しては、「クイックジャパン」の記者がホームページで書いている点が妥当と思う。
「ロッキング・オン・ジャパン」サイドは本件に関してはきっちりとした説明をしていない状況。


③記事がでた以降、小山田サイドが訂正をする機会は複数回あった。
それぞれのタイミングで訂正謝罪を行わなかった事は、小山田サイズのミスジャッジであると考える。


④オリンピックの作曲を引き受けた経緯に関しては「友人を助けるため」と言う動機が1番大きく、そもそもクレジットも出ないと言う約束であったと言う点は同情に値する。


僕がこの小山田さんの記事について知ったのは、本書を読んでさかのぼって考えてみると、2011年頃のことだろうと思います。
そのことがあったので、僕自身は本件に関しては
「小山田圭吾はオリンピックの作曲の仕事を受けるべきではなかった」
「もっと早い段階で謝罪をすべきであり、その点を放置した点において問題がある」
と言うスタンスでした。
本書を読んでも、そのこと自体に変わりはないんですけど、
「まぁ、いろいろあったんだなぁ」
と言う点は理解しました。


それを前提としても、あの時期のあの「炎上騒ぎ」「キャンセルカルチャー的騒動」はちょっと異常だったなぁと今になって振り返って思います。
やっぱりコロナでちょっとおかしくなってたっていうのはあるんでしょうね。社会全体としても、僕自身も。
今になったらすっかり忘れ去られたようになってることを考えてもそう言えると思います。


結果的には、今回の騒動によって、小山田さんは過去の記事の内容に関する個人の見解を明らかにし、謝罪もしっかりしたと言う点では一区切りついたと言うことになるんでしょうかね。
アーティストとしての活動も再開されているようですが、それが大きなバッシングにもなっていませんから、社会的にもある程度は整理がついたということなのかもしれません。
それにしても、大きすぎる代償であったとは思いますけれども。


あれ以降も炎上が繰り返され、キャンセルカルチャー的な動きも何度も繰り返されています。
そのことに問題意識を持っている人も増えてきたと言う事は確かだとは思うんですけど、こういうの、一体いつまで続くんでしょうね。
そういう動きに対する揺り戻しが来ちゃうのも、それはそれで「なんだかなぁ」って言うところはあるんですけど、
ほんと悩ましいです。

こういう趣味っぽい話を聞くのってなんか楽しいんですよね:読書録「AIを生んだ100のSF」

・AIを生んだ100のSF
著者: 大澤博隆(監修・編)、宮本道人、宮本裕人 (編) ナレーター:デジタルボイス
出版: 早川書房 (audible版)

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AIやAI周りの研究をしている研究者に広くインタビューをして、研究とSF作品について語ってもらった作品。
結局のところ読んできたSF作品と今行っている研究の内容がそれほど密接に関係しているわけではないと言うオチになったようですけどw、それはそれとして、どの研究者もかなりSF作品を読んでいるのは確かですね。


まえがき:科学技術の啓蒙「だけではない」SFの価値  
第1章 思考のストッパーを外せ 暦本純一(コンピューター科学者)
第2章 「歩行」に魅せられて 梶田秀司(ロボット研究者)
第3章 「自分とは何か」を考えるためにSFを読んできた 松原仁(政治家)
コラム① AIのジェンダー化 西條玲奈 
第4章 「人間」の謎解きを楽しむ 原田悦子(心理学者)
第5章 身体という「距離」を超える 南澤孝太 (情報理工学者(VR・人間拡張))
第6章 ストーリーに書けないものが見たい 池上高志(情報学環教授)
コラム② SFを実社会へ応用する 福地健太郎  09:29
第7章 情念が実体化するとき 米澤朋子(コミュニケーションメディア学教授)
第8章 SFは極めて貴重な資源 三宅陽一郎(ゲーム人工機能研究者)
第9章 ディストピアに学ぶこと 保江かな子(JAXA研究員)
第10章 イノベーションの練習問題 坂村健(コンピューター科学者)
第11章 研究からフィクションへ 川添愛(言語学者)
コラム③ 「物語ること」の連続性について 長谷敏司
対談 「人間とは何か」が揺らぐ時代にSFが描かなければいけないこと 松尾豊・安野貴博 
あとがき:人工知能と物語の未来について 大澤博隆  


研究者ってチョットマニアックなところがあるじゃないですか(失礼!)
で、SFもまあ、マニアなジャンル。
マニアな人が、マニアな趣味について語る
…ってそう言うのが結構好きなんですよ、僕は。
ぶっちゃけ研究者の方が研究されていられる内容の方はピンとこないところも多いし、取り上げられている作品も、どちらかというと僕の趣味と外れてるところがある。
だったら興味なんかなくはずが…なんですけど、これが面白く読めちゃう(聞けちゃう)んですよねぇ。
audibleだから余計にってのもあるかもしれませんけどね。


作品的には、
「割と僕はこう言うハード系は避けて来たんだなぁ」
と改めて。
ソラリスとか、ディック、アシモフあたりは僕も手が出てるんですけど、グレッグ・イーガンは全然読んでないです。
結構グレッグ・イーガン率、高いですよね。みなさん。


あと「星新一」。
僕は大学くらいまでは「長編派」だったんで、星新一は「食わず嫌い」だったんですよねぇ。
これは今になっての後悔のひとつです。
いや、読んだからって研究者になったとも思わないけどw。


…と言うわけで、う〜ん、どう言う人におすすめなんかなぁ。
SF好きの人は興味深く読めますかね。
研究にはさほど踏み込んでないんで、最新のAI情報なんかを期待して…だとどうかな?
もちろん僕のようにマニアな人のマニアな趣味の話が好きな人には、バッチリおすすめですw。

AI裁判をハックしまくる変人弁護士の活躍譚…と思ってたら、結構深いとこに…:読書録「AI法廷の弁護士 」

・AI法廷の弁護士
著者 竹田人造
出版: 早川書房(Kindle版)

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これもAIがらみでレコメンドされた本だと思うんですよね。
まぁそれを面白そうと思って買っちゃうあたり、的確なレコメンドってことでしょうか?


<概要>Amazonより
複雑化していく訴訟社会にあって人間の代わりにAI裁判官が導入された日本。省コスト化・高速化により訴訟件数は爆増、法曹界は困惑とともにバブルに沸きながらAI法廷を受け入れ始めていた。そんななか、機械と化した法廷を冷徹に分析する男が1人――不敗弁護士、機島雄弁。AIを騙して勝訴を手にするハッカー弁護士が複雑怪奇な依頼をこなしながら、この国の正義をめぐる一大事件に挑む。気鋭のAI法廷ミステリ!

 

目次
Case 1 魔法使いの棲む法廷
Case 2 考える足の殺人
Case 3 仇討ちと見えない証人
Case 4 正義の作り方

 


主人公の機島弁護士は、高級スーツに身を包み、整形を繰り返すことで、AI裁判官の評価が少しでも高くなるように手を打つ。
打った上でAIのロジックをコントロールして裁判に勝利すると言うハック弁護士。
倫理をどっかに置いて来た機島のキャラもなかなかですが、本書の場合、相手方となる証人のキャラも立っています。
「イエス。井ノ上、イノベーション」が決め台詞のカリスマ実業家や、最新式の義手を十本も取りつけ、「ポストヒューマン」を自称する脳波義肢開発者
なるほど、この小説は主人公と対決する証人たちのキャラクターの突飛で読ませる作品なんだな。
…と思ってたら、後半に入って、いきなり作品のトーンが変わります。


AI裁判の意義と課題、その倫理性
AIが社会の中で実装されていくことによって、社会が変化していくことへのスタンスの違い


過去の事件をきっかけに、機島の恩師、友人、その関係者たちの過去が立ち上がり、機島は自分自身のアイデンティティーすらも揺るがすような状況に追い込まれます。
まぁでも作者として書きたかったのはこちらの方でしょうね。
なかなか考えさせられもしました。
(マスターキーの説明はさっぱりわかんなかったけどw)


ただ、こういう展開を持って来ちゃったので、シリーズ物にはなりそうもないですね。
前半のキャラの立ちっぷりがなかなか好きだったので、そっちのノリでしばらくシリーズ展開してもらってもよかったように思うんですけど。
そこまでシリーズ化に興味はないってことでしょうか。


AIをテーマにしたSFが好きな方にはお勧め。
ミステリー好きだけだとちょっときついかもしれません。


そのうちこういう社会がやってくんのかなあ。
重要な判断をAIにまかすっていうのはなかなかハードルのある世界だと思うので、さすがに法廷がこういう風になるっていうのは考えがたいと思う。
でもその前段階では十分にあり得るかもっていうのが今のところの状況なんじゃないかと思います。
法律や判例の読み込みなんか既に始まってるような気がしますし。
AI弁護士とかはあり得るかもなぁ…。
オンラインで相談したら、簡単にアドバイスをしてくれるとかってすぐできそうじゃないですか。
確かにそれは結構便利なサービスのような気がするんですけどね…

「なかなかグロいな」と思ったら、レーティングが「16+」でした。:アニメ評「グッド・ナイト・ワールド」

なんかGPT絡みとか安野さん絡みで「AI」関係の検索とか色々やってたからですかね。
どっかからかこのアニメのレコメンドがされてました。
2022年のNetflixオリジナルアニメ。

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VRゲーム「プラネット」で活躍する「赤羽一家」。
彼らはゲーム上の擬似家族なのだが、実は現実社会のおいても「家族」であった。
お互いそのことは知らず、現実社会ではある事件をキッカケに破綻関係にあるのだが、「黒い鳥」と言うゲーム上の謎の存在にまつわる事件によって、「家族」としての存在が揺さぶられることになる…


何かあらすじだけ聞いてると、ネットゲーム上での協力関係がやがて現実の家族の再生につながるハートウォーミングなストーリー
みたいな感じになるんですけど、大枠としてはそういう流れなんだけれども、全然ハートウォーミングなんかじゃねぇというのがこのアニメ。
まぁすべての元凶は親父なんですけど、この親父がまぁなんというか、酷薄と言うか、自分勝手というか
なんだかんだあって、まぁそれなりにいろいろ家族のことも考えてるっていうのはわかるんだけれども、でもそれでもこのラストは一体どうよ。
これでいいの?
これでこの親父のこと許せる?
だいたいピコへのあの仕打ち!
ありゃなんだよ!(私憤w)


なんとなくきれいに収まってる感はあるんだけれども、僕個人としては相当モヤモヤ感が残ってしまいました。
ぶっちゃけ「碇ゲンドウ」パート2。
なんか綺麗な助手さんに惚れられてるあたりも…w。


VRゲーム空間の表現とか、そこでの戦闘シーンとか、各キャラクターのリアルとゲーム上での書き分け、「黒い鳥」をめぐるホラー的な表現…
アニメーションとしてはなかなか見所のある作品なのも確かなんですけどね。
途中でレーティングが「16+」って気付いたんですけど、
「まあね〜」
って感じ。
ホラー系の表現はそうなりますわな。
ただテーマ的にそこまで必要だったか、何とも言えんけど(そこが作品としての特徴ではあるかもしれませんが)


最後まで結局付き合っちゃったんで、面白くない訳じゃないですけどね。
人を選ぶ作品かな、こりゃ。
最終回、ピコにちょっと優しくしてくれたのは評価しますw。

 

楽しんだけど、Z世代の働き方は良く分からなかった。:読書録「令和元年の人生ゲーム」

・令和元年の人生ゲーム
著者:麻布競馬場
出版:文藝春秋(Kindle版)

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都知事選に出馬した安野貴博さんのパートナーは文藝春秋の編集者らしいです。
応援演説がバリ上手で評判になった彼女が編集した作品のひとつがコレだとか。
https://www.youtube.com/live/-HcHYKuQElo?si=Ku9jwkoOKVLoj0e6(https://www.youtube.com/live/-HcHYKuQElo?si=Ku9jwkoOKVLoj0e6)
前作(この部屋から東京タワーは永遠に見えない)もチョット気になってたので、ちょうどいい機会かなぁと思って読んでみることにしました。
読み終わるまで、直木賞の候補作になってる事は全然知りませんでしたけどw。


\<概要:Amazonより>
「まだ人生に、本気になってるんですか?」
この新人、平成の落ちこぼれか、令和の革命家か――。

「クビにならない最低限の仕事をして、毎日定時で上がって、そうですね、皇居ランでもしたいと思ってます」

慶應の意識高いビジコンサークルで、
働き方改革中のキラキラメガベンチャーで、
「正義」に満ちたZ世代シェアハウスで、
クラフトビールが売りのコミュニティ型銭湯で……

”意識の高い”若者たちのなかにいて、ひとり「何もしない」沼田くん。
彼はなぜ、22歳にして窓際族を決め込んでいるのか?

2021年にTwitterに小説の投稿を始めて以降、瞬く間に「タワマン文学」旋風を巻き起こした麻布競馬場。
デビュー作『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』のスマッシュヒットを受けて、
麻布競馬場が第2作のテーマに選んだものは「Z世代の働き方」。

新社会人になるころには自分の可能性を知りすぎてしまった令和日本の「賢すぎる」若者たち。
そんな「Z世代のリアル」を、麻布競馬場は驚異の解像度で詳らかに。
20代からは「共感しすぎて悶絶した」の声があがる一方で、
部下への接し方に持ち悩みの尽きない方々からは「最強のZ世代の取扱説明書だ!」とも。
「あまりにリアル! あまりに面白い!」と、熱狂者続出中の問題作。

 

この概要だと「沼田」が主人公になっちゃいますけど、小説としては「意識高い系の学生」と「むちゃくちゃ能力は高いけれども、なぜか覚めてしまっている沼田」を対比して、その両者の間で自分自身のあり方を模索する「語り手」を配する構成となっています。
小説が登場人物の何らかの変化を描くとするなら、本書で変化するポジションにあるのはのはこの「語り手」なんですよね。


平成28年から令和5年までを4つの短編で括り出して(平成28年、平成31年、令和4年、令和5年)、表層的な意識高い系Z世代を冷笑する様な「沼田」の変遷が描かれていますが、その沼田自身がZ世代(最終編で28歳くらい)でもあります。
じゃあ描かれてるという「Z世代の働き方」「Z世代のリアル」って沼田のこと?
それとも浅薄に走り回る意識高い系の学生たち?
「沼田」だと、<能力はあるけど、自己肯定感が低くて、自分の意思で決定できない>ってキャラになるんだけど、Z世代ってそんな感じかなぁ。
あんまりそんな気もしないけど…。
まぁ、そんなこと言うと、そもそも「意識高い系」の若者っていうのが、あんまりピンとこないっていうのがあるんですけどね(自分の子どもたちを見ててもw)。


と、まぁいろいろ思うところはあったりもするんですが、小説してはかなり面白く読むことができました。
「沼田」目線だと、
学生時代に自己肯定感をへし折られた男が紆余曲折の末、自分の「居場所」を見つける。
…みたいな話なんですが、その屈折度合いと空虚さがなかなか興味深い。
ある種の\<時代\>を表していると言うのは確かかもしれないなぁ。
個人的には3作目の「シロクマ騒動」がむちゃくちゃ面白くて、そっちの方向で展開していったら、もっと面白かったのにとは思いましたけどね。
まぁそうなると万城目学さんや森見登美彦さんみたいになっちゃう?
京都からじゃなくて、東京からそういう雰囲気の物語を繰り出しても、それはそれで面白いんじゃないかなぁ…と。
まぁ、余計なお世話ですがw。


前作を遡って読むか
については「留保」。
audibleとかになったら聴くかなw。
ただチョット楽しみな作家さんではありますかね。
ペンネームは何やねん、やけど。