鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

これをやれる政権が作れるかどうか…:読書録「『日本型格差社会』からの脱却」

・「日本型格差社会」からの脱却

著者:岩田規久男

出版:光文社新書(Kindle版)

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「アベノミクス」を主導した元・日銀総裁「岩田規久男」氏による「格差是正」のための政策提言。

…というか、ベースにあるのは「デフレ脱却」政策であり、それを踏まえての「格差是正」かな?

「リフレ政策」「新自由主義政策」のど真ん中…って感じです。

…多分w。

 


ここら辺の政策、コロナ禍前には評判が悪かったんですが、コロナ禍が金融・財政出動の必要性(というか、バンバン緩和するって感じ)を明確化する一方で、格差が「生死」につながるような状況にもなり得ることが露わになったことで、受け入れられる土壌ができてきた…と思うのは僕だけでしょうか?

ここまできても立憲民主党の支持率が地を這うあたりに、それを感じてるんですけどねw。

 


提言されている政策の詳細は作者自身が各章の最後にまとめてくれているので、それだけを読んでも大丈夫と思います。

さらにご丁寧に「はじめに」には作者ご自身が本書の提言内容を整理してくれています。

 


<さらに、格差の是正にはデフレ脱却に加えて次のような政策も必要である。そこで、ここでは最後に本書で提案する主な政策を要約しておこう。

 


①格差の縮小は高所得者・高資産家から低所得者・低資産家への分配を伴うが、それだけでは将来の医療や年金制度などを「国民が安心できる」水準に維持することはできない。この水準を維持するためには、 1人当たりの生産性、つまりは 1人当たり GDPを引き上げる政策が必要である。その政策は公正な競争政策を導入し、女性の労働参加率を引き上げ、さらに次の ②から ⑧を実施することである。

②日本の所得再分配政策は社会保障による高齢者への再分配に偏っており、税による所得再分配が弱い。これを正すために資本所得課税に累進制を導入する。

③雇用契約の自由化により、正規社員と非正規社員の区別をなくし、労働市場の流動化を進める。

④失業や転職などが不利にならないように、職業訓練制度や就業支援制度を取り入れた積極的労働市場政策に転換する。日本でも、 2014年頃から積極的労働市場政策への転換が始まった。今後はこの政策を進化させることが必要である。

⑤所得再分配政策を集団的所得再分配(中小企業や農業などの特定の集団を保護することによって所得を再分配すること)から個人単位の所得再分配へ転換する。

⑥ ⑤から派生する問題であるが、公的補助は供給者ではなく、消費者を対象にすべきである。教育や保育などの分野での利用券(バウチャー)制度の導入がその例である。

⑦切れ目のないセーフティネットを整備するために、 ④の積極的労働市場政策を推進するとともに、負の所得税方式の給付付き累進課税制度を導入する(こちら参照)。切れ目のないセーフティネットが整備されれば、生活保護の対象者は不稼働者(健康上の理由等により働く能力を欠く人)だけになる。

⑧年金純債務(すでに年金保険料を支払った年金支給開始以降の加入者の生存中に、政府が支給しなければいけない年金額から年金積立金を差し引いた政府の純債務)を、新たに創設する「年金清算事業団」に移し、時限的に新型相続税を設けて、それを財源に長期にわたって返済する。今後、年金を受給する世代の年金制度は「修正賦課方式」から「積立方式」に転換する。  

 


デフレ脱却に以上のような改革が伴えば、日本の格差は縮小し、より住みやすい社会になると期待できるであろう。>

 


結構、踏み込んだ内容になってるんで、理解できるかどうかってのはある…というか僕は理解しきれてないですけどねぇ。

実現性っていう意味では「年金対策」とか、「いや、これできる?」って印象も。

これができるくらいの基盤を持てる政権を作ろうと思ったら、それだけでかなり大変だと思いますよ。

 


いずれにしても、ベースになってるのは「デフレ脱却」。

これを踏まえての政策です。

「デフレ脱却政策」については別の書籍(なぜデフレを放置してはいけないのか)があrから、こっちは踏み込んで書かれてはいませんが、簡略にはまとめてくれています。

 


<格差縮小対策の本命は、政府と日銀が協調して「リフレ政策」を採用し、まずはデフレから完全に脱却することである。このデフレ脱却のための財政金融政策については、著者の『なぜデフレを放置してはいけないか』で詳細に論じたので、本書では要点だけ述べておこう。

 


①金融政策はこれまで通り、 2%の物価安定目標を達成するように、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」政策を継続する。

②財政政策は基礎的財政収支の黒字化を急がずに、その赤字を現状程度で維持しつつ、財政を緊縮的にならないように運営する。すなわち、財政赤字の縮小を急がないことである。>

 

 

 

政策以外のところで僕が面白かったのは以下。

 


①日本のリベラル政党へのケチョンケチョンぶり

「リフレ政策」への無理解に対する腹立ちもあるでしょうが、「格差」という視点からですと、よりそれが強く感じられるというのもあるかもしれません。

ここら辺の「リベラル」への苛立ちは結構広く共有されてきてると思うのですが(日米問わず)、なんで修正されないのか、個人的には不思議。

「こんなに大変な人がいます!」

って「点」を指摘するだけじゃどうしようもなくなってる…ってのがなんでわからないんだろうなぁ。

*岩田さんは真のリベラルを「完全雇用を目指し、格差を縮小することを重視する人」と定義してます。立憲民主党もここに異論はないでしょうが、「じゃあ、どうやんねん」って話。

「すべての従業員を正社員に」

いうのは簡単だけど、実現性のある政策はどこにあんねん…ってことですね。

「ゼロコロナ」みたいなもんかなw。

 


②デイビッド・アトキンソン氏への批判

中小企業対策の部分で、かなり強く批判されています。

学者の岩田さんからすると、アトキンソンさんのデータや理論を取り違えた主張が我慢ならないんでしょうね。

アトキンソンさんの主張は「中小企業いじめ」と言われますが、じゃあ岩田さんが「中小企業に優しい」かというと、全然そんなことはありません。

「中小企業保護の廃止」

がメインですからね。

「生産性が低い」中小企業にとっては、どちらの政策も厳しい…ということです。

 


ちなみに自分たちの政策を取り上げてくれた安倍政権(アベノミクス)には矛先は柔らかいです。

もっとも「消費税増税」を実施したあたり、「どこまで分かってたんかいな」とは思ってると思いますけどw。

 

 

 

現在、コロナは「第5波」真っ盛り。

しかしいずれは「日常」が戻ってくるでしょう。

そのとき、どういう経済政策が取られるのか。

 


「緩みすぎた金融・財政政策のヒモを絞らな!将来に負担を押し付けちゃいかん!」

 


…とかになったら最悪。

しかし立憲とか言いそうなんだよな、これがまた。(単に「反・自民」で言ってるだけかもしれんけど)

そういう意味じゃ、自・公政権での経済政策運営に期待せざるを得ない…というのが現実的なところでしょう。

その観点からは、実は菅さんは悪くないんだけど、コロナ対策でかなり痛めつけられちゃったからなぁ。

ここら辺、難しくなってきてるのが悩ましいところです。

 


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