鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「流れ」が出来つつあるような…:読書録「人口と日本経済」

・人口と日本経済 長寿、イノベーション、経済成長
著者:吉川洋
出版:中公新書


<本書はあくまでも経済と人口の関係についてのエッセイである。>


とありますが、データも豊富だし、学説の流れもシッカリ押さえていて、読み応えのある作品だと思います。
ここのところ、「生産性」「新・所得倍増論」なんかを読んで、人口減少が見込まれる今後の日本社会においては「生産性」がキーになると言うのを痛感させられていますが、その「流れ」に沿った作品とも言えるでしょう。
まあ、人口が減るのは間違いないんだから、「生産性」を焦点にせざるを得ないのは当然なんですけどね。
「失われた20年」の「実績」を踏まえて、
「企業経営者の意識と行動を変えなければいけない」「そのためには法律や規制による『外圧』『強制』もやむをえない」
ここら辺に踏み込んでるのが、この「流れ」の特徴でしょう。
「生産性向上のためには(プロダクト)イノベーションが重要。これを生み出すには民間の取り組みが必要だが、現状の枠組みでは経営者にそういうインセンティブが生じていない。したがってインセンティブが生じる様な圧力が必要」
実際、政府の政策の方にも、そういう「気配」が見えますしね。


<日本経済の将来は、日本の企業がいかに「人口減少ペシミズム」を克服するか、にかかっているのである。>


まあ、そうだと思いますよ。煎じ詰めれば。


本書でも触れられてるんですが、最大のポイントは「経済成長が本当に必要なのか?」。そして「格差はどこまで許容されるのか?」。
「一人当たり生産性」という点に焦点を当てることで、そもそもの「生産性」が日本の場合低く、そこに「潜在的余力がある」というのが「新・所得倍増論」の主張でしたが、それに賛同しながらも(僕は完全にagreeです)、この問い自体は避け得ないと思います。


まあ「格差」については相当に考える必要があるでしょうね。
ヒトは「絶対的所有」よりも「相対的なポジション」に左右される存在なのは心理学的にも明らか。その観点からは、社会の底上げがはかられたとしても、「格差」を認識したことからくる社会の不安定化はリスクとして 考えておく必要があるでしょう。


「経済成長」については、「一人当たりGDP」が増えている様ならある程度は許容範囲かな。
「ゼロ成長」は「分配重視」の世界。
今の日本社会が「優先順位付けした分配重視」を、長期的視点に立った合理性を持って行えるかについては、個人的にはネガティブです。
その点をソフトランディングするためにも(そういう合理性を社会で身につけるようになる)、「成長」は必要だと考えています。
とにかく「総論賛成・各論反対」「部分最適優先」になりがちですからね。今の日本は。


…てなことをいろいろ考える上においても、本書は役に立ちます。
「人口が減っても大丈夫」
だけじゃなくて、
イノベーションが経済を成長させる(イノベーションがなければ経済成長はない)」
ってのは実はナカナカ厳しい見立てなんですがw。
でもそっちに踏み込まざるを得ないってのが「失われた20年」が教えてくれてることなんですよね。