・左翼の逆襲 社会破壊に屈しないための経済学
著者:松尾匡
出版:講談社現代新書(Kindle版)
コロナ禍後の経済政策では、「反緊縮政策」が一つの柱になると僕は考えているので(っていうか、そうせざるを得ない)、ブレイディみかこさんとの対談本からの流れで、本作を手に取りました。
いやぁ、ブレイディさんもかなりな「レフト」ですが、ここまでガリガリの「マルクス主義」、久しぶりに読ませてもらいましたw。
松尾さんの主張は大きく二つの柱があると思うんですよね。
①弱者を救済するという、マルクス主義的理念
②反緊縮財政政策の正当性
個人的に僕は経済政策ってのは、「理論」というよりは「対処療法」だと思っているので、マルクス主義的理念に支えられた松尾さんの経済理論が「反緊縮財政」に傾くのは、「まあ、そうだろうな」と。
「緊縮政策」と「反緊縮政策」は、どっちが正しいっていうよりは、
「不況はまずいけど、ハイパーインフレになりすぎるのもまずい」
ってのは双方に共通すると思うので(あくまで個人的な見解w。違ってたらすみません)、そこは「立ち位置」かな〜とか思ったりもしています。
ただコロナ禍で今まで進めてきた経済政策が頓挫してしまって、格差や貧困層の拡大やら、飲食業・旅行業・エンタメ業を中心としたサービス業のダメージ(ここが低所得層の受け皿でもあったところがダブルパンチになってる)やらがあって、「緊縮財政なんてやってられん!」ってとこまで来てると、僕は思っています。
そういう観点から、「反緊縮財政をやるにあたっては、ここが重要よ」って観点が整理されてて、そこんとこは「なるほどね〜」でした。
いや、どこまで理解が追いついてるか、甚だ心許なくはあるんですけどw。
コロナ前の僕のスタンスって、松尾さんが「絶対に1ミリも乗っちゃいかん」って考え方に結構近いんですよw。
<(1)日本経済の衰退の原因は、旧来の産業構造からの転換が遅れ、国際競争力を失っていることにある。このままでは国際競争に負けて没落してしまう。
(2)生産性の低い企業・産業が、規制や財政投入や円安誘導のおかげで温存されている。このようなゾンビ企業を一掃して、そこに囚われていた生産資源を解放し、これから経済をリードする高生産性部門に生産資源を集中させなければならない。
(3)日本は財政危機にある。このままでは財政破綻は必至であり、それを避けようとすると通貨をたくさん出すことになり、円の価値が大きく損なわれてしまう。円の信認を維持して、その価値を高く保つために、プライマリーバランスの黒字化を目指すべきである。 (4)そのためには消費税の引き上げが必要である。また、財政の無駄を削り、やみくもな需要刺激ではなく、生産性を高める分野に集中して財政投入する「ワイズ・スペンディング」をしなければならない。>
それが僕の中で変わってきてるのは、一番は「コロナ禍」。
もう一つは、現状をフォローしてる中で、
「あれ?日本も結構、格差や分断が進んでるんじゃない?立ちいかなくなってる人、増えてない?」
と、それまで「見えてなかった」ところが目につくようになったってのがあるかな〜。
まあ「反緊縮派」も、
「需要喚起ができるのは完全雇用が達成できるまで」
「お金はどこにでも突っ込んでいいわけじゃなくて、どういう社会を形作っていくかをふまえて」
と主張するので、これも全くすれ違ってる…ってわけじゃないかな、とも思うんですかね。
国内の生産基盤を残すっていう点ではずれがあったかもしれませんが(上記の(1))、これもコロナで「国内生産基盤の重要性」は再認識されてますし。
視点を移すと、松尾さんが主張しなくても、保守の方がそっちに振れてきてる気配もあります。
松尾さんの「維新評」
<それに対して、かつて「新自由主義のすごいやつ」の右派ポピュリスト政党であったはずの日本維新の会は、 60兆円規模の財政支出を打ち出し、一人当たり 10万円の現金給付や消費税率の 8%への引き下げを提唱しました。維新は、 2019年春の大阪の地方選挙で圧勝していますが、そのときには、支出削減をウリにするのはすっかり引っ込めて、自分たちがいかに住民サービスのためにおカネを使ったかを針小棒大に宣伝し、大規模プロジェクトで経済成長を続けることを派手にアピールしていました。そしてその夏の参議院選挙では、プライマリーバランスの黒字化を公約から削り、緊縮政党のイメージを払拭することに努めていました。何が今大衆にウケるのか。きっちり時流を読んでいるということです。
維新の創立者である橋下さんは近頃国政への野心を隠そうとしていません。旧国民民主党の積極財政派の政治家の一部を引き込んで、「反緊縮」的に見かけを飾る本格的な右派ポピュリズム政党を作って次の総選挙に打って出たならば、自民党の経済運営に失望した大衆の支持を集めて、かなりの躍進をする危険性があります。もしどうなれば、自民党の議席は減っても、改憲議席は確保されるでしょう。この政権のもとで、めざましい景気回復が実現されて大量失業が解消されたら、もはやこの国は元には戻れなくなるに違いありません。>
バリバリ主観が入ってますがw、大阪在住者としては、
「割といいトコついてる」。
いい意味での「君子豹変す」が、大阪維新(橋下徹)にはあると思います。
松尾さんの懸念は「改憲」と「財政支出の先」でしょうが、前者はともかく、後者については「話し合いの余地はあり」だし、実際「豹変」する可能性は高いんじゃないかと思うんですよね。
<この政権のもとで、めざましい景気回復が実現されて大量失業が解消され>、教育・介護・医療・デジタル化に財政が積極投入され、「人」による社会基盤の再整備がされるのであれば、それはそれで悪くないんじゃないの?…って話になりかねないようなw。
そして、菅政権も、実はそういう「君子豹変」の気配を見せつつあるんじゃないかな〜というのが僕の漠然とした感想です。
そうなると「改憲」は土壌にのってきちゃうけど。
(基本的に僕は改憲賛成派なんですけど。維新とは是々非々ですがね)
ここら辺は、豹変し切る前にすっ転ぶ可能性もあるけど、野党がね〜。
党大会では枝野さんがブチ上げてましたが、ぶっちゃけ遅いし、レフト2.0の罠からも抜け出せてない雰囲気。
これだと自民や維新の豹変の方が早そうです。
ブレイディさんの本(ブロークン・ブリテンに聞け)ではザッとしかわからなかった、コービン等の「レフト3.0の失速」についても本書では解説されてて、それも中々面白かったです。
まあここら辺の「リベラルの理念」と「現実」で苦闘せざるを得ないのが、今のリベラル/レフトのシンドイところですかね。
そっちに対抗する層(トランプやらマクロンやらジョンソンやら安倍やらw)の方もスットコドッコイぶりが露わになっちゃったのは、コロナ・ウイルスの恐ろしいところだったりしますが。
いずれにしても、これからは「反緊縮財政」のタームじゃないですかね。
「じゃあ、どこに財政を注ぎ込むのか」
この議論をしっかりとすべきだし、トータルな絵図を与野党で議論すべきだと僕は思ってます。
そこに「未来」がありそうです。
(ま、まずは「感染抑制」&そこで傷んだ事業・個人への支援…ではありますが)