・ここはすべての夜明けまえ
著者:間宮改衣 ナレーター:池ちさ子
出版:早川書房(audible版)
出版されて時、星野源さんが激賞してるのを見かけて、
「読もうかな?」
と手にとってんですが、ちょっと読みづらそうで断念した経緯があります。
今回、audibleでオーディオブック化されているのを見つけて、聴いてみることにしました。
「読む」より「聴く」方が向いてるかな〜と思いまして。
…大正解w。
サマリー(audible)
何もかも手遅れで、 何もかも破綻していて、だからこそ優しく。
2123年10月1日、 九州の山奥の小さな家に1人住む、 おしゃべりが大好きな 「わたし」 は、これまでの人生と家族について振り返るため、 自己流で家族史を書き始める。 それは約100年前、 身体が永遠に老化しなくなる手術を受けるときに提案されたことだった。
パラレルワールド…かな?
物語は「現代」から、人類が滅亡しつつある「100年後」の未来にまで続くんですが、「現代」パートでは実際に「ある」事物への言及がありますから。
物語としては、「融合手術」を受けて老化しなくなった(サイボーグみたいなものかな?)女性が書き記した「家族史」と、彼女が語る「その後」によって構成されています。
その間に気候変動や大災害で人類は滅亡を迎えつつあるところまで追い込まれているようなのですが、彼女が語るのはあくまでも「家族」の物語。
父と、兄姉と、甥で恋人にもなる人物
彼らについての話がホボホボになります。
その語りの裏にあるテーマは「虐待の連鎖」(による人生の搾取)になんですけど、手術を受けて感情のあり方が変わってしまったのか、彼女の語りは終始淡々としています。
淡々として語られる「家族の物語」が、なぜか人類の終焉を納得させる…実に不思議な感覚のSF小説です。
「家族史」自体は筆記されたものなんですけど、おしゃべり好きだった主人公の文体は極めて「しゃべり」に近く、そういう意味では「読む」よりも「聴く」方が向いてるんじゃないかなぁ〜と。
少なくとも僕はオーディブックで聴いて良かったと思っています。
テーマそのものは後味の悪いものなんですけど、彼女の語りによって、穏やかに聞けるようになってる…ってのもあるんですよね。
(物語の形式としては「アルジャーノンに花束に」に似てるところがあるかな?
あれも「語り」の物語ですから)
「語られる物語」だから、聞き始めた頃は「信頼できない語り手の物語」になるのかな…とかも思ったんですが、むしろここまで「信頼できる」語り手はいないのだと途中で気づきます。
にもかかわらず、ある種の「どんでん返し」があるところが、この物語の優れたところなんでしょう。
その気づきの時は、主人公にとっても、人類にとっても、「終末」の時でもあるんですが。
それでも意外に読後感(聴後感w)がいいのも、なんとも不思議な感じです。
これはなかなかオススメの作品。
個人的にはオーディオブック聴く方をさらにオススメですw。
読書感想文
ここはすべての夜明けまえ
間宮改衣
audible