鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

見方によっては「トイストーリー3」っぽい:読書録「クララとお日さま」

・クララとお日さま

著者:カズオ イシグロ 訳:土屋政雄 ナレーター:近藤唯

出版:早川書房(audible版)

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僕は「カズオ イシグロ」の良い読者ではありません。

長編で読んだのは「日の名残り」だけ。

「私を離さないで」は途中で脱落。あ、「夜想曲集」は読んだかも。

 


今回、読んでみる(聴いてみる)気になったのはテーマが「AI」絡みっぽかったから。

&audible版がセールで安く購入できたからです(読み放題の対象にはなっていません)。

audibleで良かったです。リアル本だったら、脱落してたかも…。

 


ストーリーの骨子は比較的シンプル。

 


アンドロイドが実装されている未来社会。

富裕層は遺伝子操作(向上処置)で子供の能力をアップさせたり、自分の子供専用の人口親友(A F:Artificial Friend)を購入したりもしている。

AFのクララは、向上処置を受けた後、体調のすぐれないジョジーのAFとして購入される。

ジョジーの母親、家政婦、幼馴染リックと、ジョジーの面倒を見ながら、クララはジョジーをめぐる色々な人間関係を理解していく。

やがてクララは、ジョジーの姉が向上処置を受けた結果死亡してしまったことを知り、ジョジーの母親が、ジョジーも死んでしまった時のことを考えて、ある計画に取り組んでいることを知る。

ジョジーが健康を取り戻すことが最重要課題と考えるクララは、「お日さま」にお願いをしようと、独自の計画を実行する…

 


カズオ・イシグロさんの作品は「信用できない語り手」が物語るスタイルと言われますが(ご本人はそれを狙っているわけではないようですが)、一人称の語り手が拘束される限界(時代・知識・思想・感情・思い込みetc,etc)を通して語る内容を「何処まで信用していいのか」を考えながら読んでいく必要があります。

本作の語り手「クララ」はアンドロイドですので、読み手を「騙す」ようなところはないのですが、知識には限界があり、能力的な制約もあるため、彼女が語ることが何処まで「実際」を反映しているのかがよく分かりません。

…なんで、前半のクララがジョジーをめぐる関係性を把握するあたり。

ここら辺がちょっとタルかったw。

オーディオブックじゃなかったらギブアップだったかも、です。

 


後半のジョジーの父親が登場したあたりからは、動きも多くなったし、それぞれの登場人物たちの「考え」が戦わされるシーンもあって、かなり面白くなりました。

終盤のジョジーをめぐる「奇跡」の展開。

…は、どう解釈したら・・・ってのはあるんですけどね。

ただクララの視点から見たら、これはそう言うことだったのだ…と。

そう言う風に納得するのが一番素直なのかもしれないなとは思います。

 


ラストの展開は「切ない」し、見方によっては「残酷」でもある。

でも子供の時代に親しんだ「玩具」をいつまでも<友>とはできない。

これは「トイストーリー3」で語られたことでもあります。

AFでさえそうなのか…と言うところをどう考えるのかと言うのはあるにせよ、ではAFは人間と同じ存在なのか…と言う問いもまた…。

クララが元・店主と再開するのは、実はジョジーが大学に行ってから何十年も後の話…とでも読めば、ちょっとは心安らかになってりもするかな?

 


「トイストーリー4」のように、クララがクララとしての冒険を自ら歩むようになる。

…そんなラストならこれは嬉しいんですが、見方を変えたら「ターミネーターの世界」になっちゃうかも…ですもんねw。

これはこれで美しいラストなんだと思いますよ。

 


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