鈴麻呂日記

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どこまで「人間」を信じれるかって話かも:読書録「22世紀の民主主義」

・22世紀の民主主義  選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる

著者:成田悠輔

出版:SB新書(Kindle版)

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テレビのコメンテーターとかで、割と過激な発言をされている(らしい)作者の「民主主義のアップデート」に関する著作。

…って、テレビをほとんど見ないんで、どういう発言されてるかは、あんまり知らないんですけどね。

ネットニュースなんかで流れてくる記事を読む限りは、「一見過激なことは言うけど、ロジカルではある」って印象ですが。

本書もまあ、そんな感じでしたw。

 


作品の「要約」は作者自身が冒頭でしてくれています。

その「要約」からピックアップすると…


○問題認識

<民主劣化とその経済的副作用は今世紀に入って目立ちはじめた。 21世紀の何が民主主義をつまずかせているのか?  

ウェブ・ソフトウェアビジネスの成長やウェブ上の情報拡散、金融危機、ウイルス感染など、 21世紀の主成分には共通点がある。嵐の前の静けさのような助走や停滞があったあと、常人の直感を超えた速度と規模で反応が爆発することだ。  

超人的な速さと大きさで解決すべき課題が降ってきては爆発する現在の世界では、凡人の日常感覚( =世論)に忖度しなければならない民主主義はズッコケるしかないのかもしれない。>

 


○対策の方針

<重症の民主主義が再生するために何が必要なのだろうか?  三つの処方箋が考えられる。民主主義との闘争、 民主主義からの逃走、そして まだ見ぬ民主主義の構想だ。>

 


ただ「闘争」は漸進的な改革にしかならず、<超人的な速さと大きさで解決すべき課題が降ってきては爆発する現在の世界>には間に合わないと思われるし、そもそも既存選挙で勝ち上がった政治家が、選挙改革を実施するとも思えない

「逃走」は一部の富豪や権力者にはあり得ても、大多数のこぼれ落ちる人々を救うことはできない。

<求められるのは、民主主義を瀕死に追いやった今日の世界環境を踏まえた民主主義の再発明>であり、そのための「構想」だ。

 


○構想

<そんな構想として考えたいのが「無意識データ民主主義」だ。インターネットや監視カメラが捉える会議や街中・家の中での言葉、表情やリアクション、心拍数や安眠度合い……選挙に限らない無数のデータ源から人々の自然で本音な意見や価値観、民意が染み出している。「あの政策はいい」「うわぁ嫌いだ……」といった声や表情からなる民意データだ。個々の民意データ源は歪みを孕んでハックにさらされているが、無数の民意データ源を足し合わせることで歪みを打ち消しあえる。民意が立体的に見えてくる。>

 


<無数の民意データ源から意思決定を行うのはアルゴリズム(中略)である。このアルゴリズムのデザインは、人々の民意データに加え、 GDP・失業率・学力達成度・健康寿命・ウェルビーイングといった成果指標データを組み合わせた目的関数を最適化するように作られる。>

 


<無意識民主主義は大衆の民意による意思決定(選挙民主主義)、少数のエリート選民による意思決定(知的専制主義)、そして情報・データによる意思決定(客観的最適化)の融合である。周縁から繁りはじめた無意識民主主義という雑草が、既得権益、中間組織、古い慣習の肥大化で身動きが取れなくなっている今の民主主義を枯らし、 22世紀の民主主義に向けた土壌を肥やす。>

 

 

 

<インターネットや監視カメラが捉える会議や街中・家の中での言葉、表情やリアクション、心拍数や安眠度合い……選挙に限らない無数のデータ源>を集めるって、なんか究極の監視国家みたいやなぁ…

とか

<無数の民意データ源から意思決定を行うのはアルゴリズム>って言うけど、その「アルゴリズム」を設計するのは「人間」。それを権力者が恣意的に左右することことが「デストピア」なんじゃないの

とか、

まあ、色々反論は出てくるでしょうが、もちろんソコら辺は作者も承知の上。

そういう「反論」への「反論」も本書では論じられています。

 


そもそも「22世紀の」民主主義…ですからね。

<今>の技術や社会環境を前提に、すぐに成立するものではない。

100年単位で未来を考えながら、何が出来るか/ありうるかを、<思考>錯誤するっていくのが本書の最大の目的と思います。

 


<とはいえ、この本はちょっとただのビジョンすぎる気もする。「おしゃべりばかりか。ちょっとは具体的な取り組みや実践を見せてみろ」と言われそうだ。だが、そんな 21世紀の人類っぽいことは言わないでほしい。>

 

 

 

読んでて僕が思い出したのは東浩紀さんの「一般意志2.0」。

僕が読んだのは「2011年」。

あの本も決して10年、20年で出来上がる未来を語った本じゃなかったけど、あれから10年経って、その<アップデート版>を読んでるような気分に僕はなりました。

ご本人たちには迷惑なことかもしれないけど…w。

 


「無意識データ民主主義」

面白いと思うけど、実現性としてはどうかな…?

…と思う一方で、今回の参院選の動きなんか見てると、

「以前以上にネットでの議論とか、SNSでの情報提供とかが、現実に影響を与えるようになってんじゃないの?」

って思いもあります。

国民民主の比例票の動きとか、東京選挙区の結果とか、参政党の議席獲得とか。

いいことばっかりとは言えないかもしれないけどw。

 


僕個人としては、

「ソコまで<人間>、信じていいのかな?」

ってのもあるんですけどね。

「無意識データ」から導き出される政策が人類を良くしていくのかどうか?

国家間のせめぎ合いもありますからね…。(ロシアでの「無意識」とウクライナ、EU、米国、日本の「無意識」は、どう調整されるのか)

 


でも本書の問題提起と、解決策への方向性の議論はナカナカ面白くはありました。

幅広くネット・SNSデータを活用しつつ、ソコから得られるデータを集約することから政策を論じていく。

そういう未来はあり得るのじゃないか…とか思いつつ。

 


#読書感想文

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