・リベラルの敵はリベラルにあり
著者:倉持麟太郎
出版:ちくま新書
リベラルの中からリベラルの現状について批判的に評する動きが出てきてますが(「リベラリズムの終わり」とか、「なぜリベラルは敗け続けるのか」とか)、本書はそういう流れの中で最も「政治」に近いところから提言された作品かもしれません。
安保法制論議の際に日弁連から論点整理を依頼され、国会証人にもなり、その後野党の政策立案のサポートなんかにも絡んだ方ですからね。(山尾志桜里議員との不倫騒ぎもありましたな。ま、どうでもいいけど)
・「リベラル」が想定する「個人」があまりにも「合理的」すぎるため、現実の「弱い個人」を掬い取れず、その理念への執着が社会との遊離に繋がっている
・「リベラル」も「保守」も、政党/議員は「選挙に有利になる」ことを行動原理とすることから、個別の細分化された主張を掲げる集団にアサインすることに終始し、そうした主張をしない過半の人々を置き去りにしてしまっている。(そのことがネットによって、より可視化され、先鋭化している)
・結果として先鋭化し分断した「リベラル」と「保守」は、個々の政策においても着地点を見出すことができず、互いを批判し、排除し合うだけの関係となってしまっている。
といった認識は、結構僕も共有することができます。
そういった細分化され、分断化された「個人」をまとめるために「包摂的なナショナル・アイデンティティ」が必要…とするあたりは、コミュニティの重要性なんかを考える延長線上にありえるかな、とも思います。
(もっともこういう「掲げ方」そのものが包摂を阻害するかもしれませんが)
作者はそこから、
「ではどうすべきか?」
という点にも論を展開しています。
ポイントとなるのが「カウンター・デモクラシー」。
「選挙」に囚われて近視眼的になってしまっている政党や政治勢力とは別の形で、民主主義を形づくろうって動きですかね。
<カウンター・デモクラシーは、代議制民主主義への反動や克服という点では「ポスト民主主義的」であり、監視と抵抗というその原始的な本質からすると、「プレ民主主義的」でもある。統一的で全体的な理論ではなく、あらゆる政治実践の積み上げである。ただ一つのベストば解があるなどといった観念をむしろ捨てたところに、カウンター・デモクラシーは醸成される。>
<本来カウンター・デモクラシーは、既存の代議制民主主義と敵対するものではなく相互補完的なものである。我々市民が、「選挙」という機会でしか政治に対する民意の入力ができないとすると、あまりに機会が乏しい。したがって、政治への民意の入力機会を日常的・恒常的に補うのがカウンター・デモクラシーである。>
その実践例として、シビック・テックなんかを活用した動きを実際にしようとしてるあたりは、興味深いし、期待もしたいなと思いました。(シビック・テック=<市民自身が、テクノロジーを活用して、行政サービスを始めとした「公」の問題や、様々な社会課題を解決すr取り組み>)
しかしまあ、全体的には「実践」おける評価は「これから」って感じでしょうか。
気になるのは、リアルに議論・討議をカウンター・デモクラシーとして実践してる事例として、「コクミンテキギロン」や「ゴー宣道場」をあげてるあたり。
言いたいことはわかるし、そういう意義もあるんでしょうが、外から見てると、そういう集まりそのものが「フィルターバブル」の一つに見えちゃってるってのもあるんじゃないか、と。
少なくとも僕自身は、この両者の動きが広く開かれたものであるという認識は持っていません。
(様々な実践の積み上げ…という観点からは、個々を云々する必要がないんですけど。問題はそういう動きがどれだけ数多く盛り上がってくるか、それを社会の動きにどう繋げていくか…ということでしょうから)
それに、広く実践を呼び込んでいくという観点からは、本書は「ちょっと高尚すぎる」かもw。
いや、すごく頭の整理になったし、様々な視点からの論議がされていて、興味深くもあったんですが、「リベラル批判」という観点からは、「その批判自体が上から目線やん」って感じがしなくもないというか…w。
「いや、そりゃお前の勉強不足やろ」
と言われりゃ、「全くその通り」なんですが、同時に本書の趣旨から言えば、
「それをいっちゃおしまいよ」
でもある。
まあ、「理論書」としてこういう本が必要なんでしょうね。
だからこれはこれでいいとして、「次」が問題。
こうした課題認識・問題認識を踏まえ、社会を動かすような訴えを、どういう形にするかが、重要だと思います。
(民主党政権をはさんだ日本の政治の動きが、小沢一郎の「日本改造計画」に引っ張られたように)
倉持さんが書く必要はないんですけどね。
そのサポートをすればいい。
ただ問題は「その人材が見当たらない」ってこと。
「書く」だけじゃなくて、それを「体現」しなきゃいけませんから。
山尾志桜里?玉木雄一郎?石破茂?
まだ知らぬ「誰か」?
これからの10年・20年を引っ張る(あるいは「掻き回す」)誰か。
その「誰か」が本書の問題意識と提言を背負ってくれれば、これは期待ができると思うんですけどね。
非常に読み応えもあるし、頭の整理になるとともに、志の高い作品だと思います。
「リベラル」のあり方に興味がある方は、是非ご一読を。