鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

続編はないんだろうね。:読書録「かくして彼女は宴で語る」

・かくして彼女は宴で語る 明治耽美派推理帖

著者:宮内悠介

出版:幻冬舎

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SF作家であり、三島由紀夫賞作家でもある宮内悠介が、アシモフの「黒後家蜘蛛の会」を模して書いた推理短編集。

明治末期に実在した耽美派芸術家の会「牧神(パン)の会」を舞台に、実際に集まった芸術家たちが「黒後家蜘蛛の会」のメンバーを担い、集う牛鍋屋(第一やまと)の女中「あやの」が探偵役の「給仕ヘンリー」のポジションになります。

 


作品は全部で6編。

う〜ん、「推理」小説としてはどうかなぁ。

「いや、それは強引すぎるんちゃう?」

ってのがなきにしも…。

でも、

「明治耽美派推理帖」

という副題からは頷けるものがあるし、そのテーマは明治以降、現代にまで届くところがあると感じます。

 


<「帝国が美と化した世界となれば、美は帝国と同化する。これが侮れないのは、ぼくらが本当に、本心からそこに美を見出してしまいかねないことなんだ。ではもし、帝国が危うい道を歩みはじめたら?それでもなお、ぼくらがそこに美を見てしまったら?どうあれ、美のための美は虚構ゆえに危うい。耽美では、政治に抗えない」>

<「それならば、美を政治化することで政治に抗うか?でもぼくは、たぶんそれに美を感じられないんだ。これが宿痾みたいなものでね。結局は好きなんだよ、白秋君の書くようなものが」>

 


美を政治化する

 


木下杢太郎の惑いに、「あやの」はその道を進むと答えます。

それが結実したのかどうか…

 


最終話はSF作家であり、三島由紀夫賞作家でもある宮内さんならではの「仕掛け」が施されます。

多分、「推理小説」としてはその「仕掛け」が瑕疵となってると思うのですが、宮内さんが書きたかったのはココなんでしょうね。

「作家」である自分自身としても。

 


「黒後家蜘蛛の会」はアシモフの死によって完結していますが、続けようと思えばどこまでも続けることができるシリーズでした。

その形を模した本作は、しかし「続編」を拒むラストになってます。

まあ、こんだけ調べながら書くのは大変だってのもあるでしょうがw。

 

 

 

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