鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

むっちゃ、「天才」やん!:読書録「フォン・ノイマンの哲学」

・フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔

著者:高橋昌一郎

出版:講談社現代新書(Kindle版)

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どなたかが面白いって言ってるのを見かけて、ちょっと前にAmazonでポチってた本。

忘れてたんですが、出先で手元の本を読み終えちゃった時にライブラリーを眺めてて「再発見」。

で、読んでみたんですが…

無茶苦茶面白い!

帰りの電車で読み始めて、そのまま寝る前までに一気読みしちゃいました。

 


ジョン・フォン・ノイマン。

何やった人かって言うと、やったことが多すぎて、なんか説明がしづらいって言う…w。

 


<わずか五三年あまりの短い生涯の間に、論理学・数学・物理学・化学・計算機学・情報工学・生物学・気象学・経済学・心理学・社会学・政治学に関する一五〇編の論文を発表した。>

 


数学理論からスタートして、ゲーム理論、原子爆弾、コンピューター、天気予報…と広範囲にわたって現代社会の基本構造を作り、「理論」だけではなく、「実践」において、アメリカの公的組織において影響力を発揮し続けたという恐るべき人物。

その人生を追いかけつつ、その局面における彼の思考・哲学を分析・解説する…というのが本書の基本的な構図です。

 


まあ、何よりそのエピソードの天才ぶりがものすごいです。

ラノベのチートな主人公みたいw。

それを追っかけるだけでドンドン読めちゃいます。

ノイマンは、その手の「天才」にしては社会性・社交性があった人物で、奇行やら人間的軋轢的やらで破滅する…みたいな展開にはならず、基本的には「上り基調」ですしね。

 


ただしその思考・哲学・思想の根本には「恐るべきもの」があったというのも、多くの人が認めるところ。

だからこそ、「人間のフリをした悪魔」とも呼ばれたわけです。

キューブリックの「博士の異常な愛情」のドクター・ストレンジラブのモデルとも言われています。

著者はそれをこうまとめています。

 


<要するに、ノイマンの思想の根底にあるのは、科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきだという「科学優先主義」、目的のためならどんな非人道的兵器でも許されるという「非人道主義」、そして、この世界には普遍的な責任や道徳など存在しないという一種の「虚無主義」である。  

つまり、ノイマンは、表面的には柔和で人当たりのよい天才科学者でありながら、内面の彼を貫いているのは「人間のフリをした悪魔」そのものの哲学といえる。だからこそ彼は、第7章で述べたように「マッド・サイエンティスト」の代表とみなされるわけである。>

 


例えばそれは第二次世界大戦時の原爆投下に対する主張としてはこんな風に顕れます。

 


<空軍が目標リストとして「皇居、横浜、新潟、京都、広島、小倉」を提案した。ここでノイマンは、皇居への投下に強く反対し、もし空軍があくまで皇居への投下を主張する場合は「我々に差し戻せ」と書いたメモが残されている。  

ノイマンは、戦後の占領統治まで見通して皇居への投下に反対したのであって、事実そのおかげで日本は命令系統を失わないまま三ヵ月後に無条件降伏できた。その意味で、ノイマンは無謀な「一億玉砕」から日本を救ったとも考えられる。  

その一方で、ノイマンが強く主張したのは、京都への原爆投下だった。ノイマンは、日本人の戦争意欲を完全に喪失させることを最優先の目標として、「歴史的文化的価値が高いからこそ京都へ投下すべきだ」と主張した。>

 


果たして彼が本心から「人間性」(とべき言うもの)を失っていたのかどうかは、なんとも言えません。

「ドクター・ストレンジラブ」に模せられたのは、彼のソ連への先制核攻撃の主張によるものですが、(50年代の)「合理的・論理的帰着」としての主張とみえる一方で、その根本に共産化した故国(ハンガリー)への想いや、同僚が共産スパイであったことの衝撃の影響なんかも否定できないでしょうから。

僕個人としては、ファイマンへのアドバイスや、妻への心情の吐露のところに、「奥底には人間性を持ち続けていたのだ」と思いたいところなんですけどね。

(甘いかもしれないけど)

 


正直言って、彼の業績については、僕は評価する知識も能力もありません。

そこら辺が書かれているところは日本語が書かれてるとはとても思えなかったくらいw。

それでいて彼の天才ぶり、卓越した成果、そして人間離れした活躍などは、本書を読むとよくわかります。

チューリング、ゲーテルなど、他の「天才たち」との関わりや比較なんかもあって、そこら辺も読みどころの一つ。

興味深く読み進めた向こうに、

「人間性とは何か?」

という問いも浮かんでくるあたり、なかなかの一冊と思います。

 

 

 

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