鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

終盤の畳み掛ける展開と、思想戦が読ませる:読書録「竜の医師団4」

・竜の医師団4
著者:庵野ゆき
出版:創元推理文庫(Kindle版)

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シリーズ4作目。
終盤の竜の手術をめぐるアクションまがいの手に汗握る展開に熱くなる一方、その裏で展開する陰謀とそこにある思想とのせめぎ合いが作品を一層深めて行きます。
いやぁ、面白かったw。


(Amazon)
竜が飛べば乱気流が起こり、
竜が潜れば大波が起こる

幼竜の治療法を求め、
最先端の竜医療国イヅルへ!

カランバスの〈医療交流団〉は、竜医療先進国イヅルに赴いた。目的は幼竜チューダの翼の治療法を聞き出すことだ。そのために、竜の細胞を移植した目をもつリョウという餌も用意した。〈竜舞う国〉イヅルは沢山の竜が訪れる豊穣(ほうじよう)の地。そこでリョウたちは治療のためにイヅルに降りた竜〈青のアルワン〉を見る! 医療と人のあり方を問う大人気の異世界本格医療ファンタジイ第4弾。

 

カランバスにもたらされた仔竜チューダの治療のため異国の地イヅルを訪問した主人公たち。
青い竜アルワンの存在に治療の希望を見出すんですが、手術を担う天才外科医が不穏な動きを見せます。
ぶっちゃけ「優生思想」を広めようとしてるわけです。
病に罹ると甚大な被害を人間社会に与えかねない(山のように巨大なので)「竜」に関して、遺伝子的に問題のある個体は去勢して遺伝子を残せないようにしてしまおう…と言う。


もちろんその思想自体はかなり醜悪なものではあるわけですが、巨大すぎる龍が実際に病に犯されたことによって甚大な被害を与えると言う事実がある中で、その思想は根強い賛同者を得ていきます。
主人公もまた竜たちに対する強い共感から反発をしながら、一方で、自分自身の出自から反出生主義的な感覚を持っており、そのことが優先思想への理解にもつながってしまいます。
トラブルが連続する手術に対して対応していく姿が面白いのはもちろんなんですけど、個人的にはこの思想戦の方が興味深かったですね。


<「生まれたくなかった。何故産んだ。そうして命を恨みつつ、お前は生きようとあがいた。お前が真に知っているのは、『死にたくない』という叫びだ。……違うかね」>

 

<死にたくない、死なせたくないと泣き叫ぶ者がいてこそ、医学はこの世に誕生したのだと。命がこの世に生まれ落ちた瞬間から、その叫びは始まり、医療はそれに応え続けていく。  
生きたいと、幸せになりたいと、患者自身が望む限り。
「そのあがきを醜いと目を逸らす者は、医療者ではない。ましてや見るに堪えんからと、命そのものを否定する権限は、医師にない。この世の苦しみに抗いたければ、どんな命も生きられるよう、知恵と技を追求し続けるのだ。  
――医療とはそうした、茨の道なのだよ」  
一度開いたら戻れぬ扉を、人が開いた以上。  
果てなき理想に向かって、ただ突き進むのみ。>


作者の1人はお医者さんですからね。
この志もまた、その方自身がお持ちになっている志なのかもしれません。
自然の被害を抑えるために、自然に対してどういうような手を加えていくのか、
ペットが増えすぎることを避けるために、去勢手術を行うことの是非をどう考えるのか
少し視線をずらすと、そんな簡単に答えが出るようなことではないとも思います。


予定ではあと2冊、このシリーズはあるようですが、どういう展開を今後迎えるんでしょうか?
楽しみだけど、ちょっと恐ろしくもなりました。
いや、早く書いて欲しいんですけどw。


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