鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「ラストワルツ」

・ラストワルツ
著者:村上龍
出版:KKベストセラーズ

ラストワルツ

ラストワルツ



「すべての男は消耗品である」の最新刊。
ズッと読んできてたこのシリーズなんだけど、前作(「賢者は幸福ではなく信頼を選ぶ。」)はスルーしちゃいました。
面白いのは面白いんだけど、「もういいかな」と。
ちょっと「コスパ」的にも「どうかな?」って感じでしたし。
(1500円弱で、2時間もあれば読み終えちゃう分量。しかめっ面の村上龍の写真を見てもねぇw)


本作も出たのは知ってたんですが、読む気はなかったんですよ。
でもネットで佐々木俊尚さんのコメントを見て、ふと「読んでみようかな」って気になりました。
何か特別なコメントだった訳じゃないんですけど、ちょっと気になった・・・ってトコでしょうか。


で、相変わらず(休憩こみで)「2時間」で読んじゃいましたw。
本人も書いてますが、昔に比べて、やっぱり「歳はとったかなぁ」と。
もともと「他人のことはどうでも良い」ってスタンスでしたが、その傾向が強くなり、ややニヒリスティックな気配すら漂わせています。

<だが、わたしは「ニヒリズム」だけは避けようと思う。>

とご本人は仰ってますが。

あと、今まで絶対に避けてきた「懐古趣味的」な内容もチラホラ出てきてますね。
そこに耽溺することは本人は絶対に否定するでしょうが(<わたしは、昔を懐かしんでいるだけではない。「失われているもの」について、厳密に考えようとしているのだと思う。>、それでも表題となった「ラストワルツ」なんか、実に・・・。
YouTubeでグレース・ケリーの映像を組み合わせた「ラストワルツ」、観ちゃいました。


JMMや「カンブリア宮殿」で経済界にも人脈を持っている作者の「アベノミクス」への評価は非常にクールです。


<わたしは個人的に、「アベノミクス」が大きな成果を上げるとは思えない。>


第一の矢、第二の矢、第三の矢への評価も、驚くようなことはありませんが、ポイントを突いています。(<「アベノミクス」は、安倍内閣の高い支持率を基盤としている。だが「第三の矢」は、その支持基盤と矛盾する。>
その上で「あとがき」で作者は「意味のある停滞」に触れています。
そして、<今の停滞には意味がない。>と。


基本的に「個人」の力を信じ、強めて行くことを指示する作者のスタンスは「新自由主義」的なポジションに近いものがあります。
そのスタンスからは「既得権益」を突き崩し、社会の新陳代謝を促す方向性が支持されます。
だが、同時にソコには「格差」の問題も生まれることとなり、階層が固定化しないための「配分」のあり方が極めて重要なイシューとなる。
作者は「教育」を挙げていますが、今の日本政治にその意志が見えないことが将来への「不安」や「閉塞感」につながっているのかもしれません。
これは別に日本だけの話じゃありませんがね。


まあ、興味深く読めたので、結果的には満足なんですが、さて次は買うかなぁ。
少なくとも村上龍のしかめっ面ポートレートは減らして欲しいものですw。