鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

思ってたより読んでました:読書録「村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事」

村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事
著者:村上春樹
出版:中央公論新社


ムック本みたいなもんかな、と思ってたんですが、予想以上にしっかりした内容の本でした。
村上春樹が翻訳出版した70冊くらいの翻訳本が写真付きで紹介され、一冊ずつに村上春樹本人のコメント。加えて結構長い柴田元幸氏との対談が収められています。
コメントを読んでると、なんだか懐かしいような気分になってきたり、また読みたくなったり。
結局読み終えて、未読の翻訳本を2冊、アマゾンで注文してしまいましたw。


僕自身は村上春樹の小説の方はほぼコンプリート(長編は確実)なんですが、翻訳の方はそこまで読んでる認識はありませんでした。
フィッツジェラルドカポーティ、そしてもちろんチャンドラー。ここら辺は読んでます。
でも現代作家の方は個人的興味も薄いのであんまり…。
特に村上氏にとって極めて重要な作家である「レイモンド・カーヴァー」は、全集は揃えたものの殆ど手に取ることはなく、結局前回の引っ越しの時に手放してしまったという「後ろめたさ」もありましたので。


でも本書で並んでる書影を見てると、思ってるより読んでるw。
カーヴァーのセレクト短編集、ティム・オブライエングレイス・ペイリー。音楽関係の翻訳は全て持ってますしね。
アレヤコレヤでカバー率は(カーヴァーの全集を除くと)2/3位にはなるでしょうか。
やっぱ、「ファン」なんですかね、これはw。


本書の最後に翻訳家の都甲幸治氏が寄稿してて、村上春樹の評価する文学作品の特徴として、


<1 読んで面白い。その場合、偉い人が書いているとか、文章が前衛的とかは評価しない。あくまで文章は読みやすく、ストーリーがはっきりしているほうがいい。
2 人種・階級・ジェンダーといった社会問題を扱っていても評価しない。そしてまた、そうした問題の欠如を問題視したり、ましてや苦悩したりしない。言い換えれば、左翼的な文学観を一切認めない。
3 国家の論理と闘っている。これは集団の持つ暴力を感じとり、それに対峙する姿勢といってもいい。>


と整理してくれてます。これは村上春樹作品自体にも通じるスタンスでしょう。
一言で言えば「教養主義」と対峙する文学観。そして「教養主義」は力を失い、村上春樹的文学観が主流になりつつなると解説しています。


概ね、僕もそんな感じを持ってますね。
その中で「3」が強い意味を持って相対的に浮かび上がってきて、そのことが若干の「雑音」になりつつもあり…ってのが「騎士団長殺し」を巡っては出てきてるかな?
まあ、「教養主義」ではないけど、村上春樹氏自身は「反・知性主義」とは一線を画していると個人的には思っていますので。


まあ僕としては「湖中の女」が訳されて、村上春樹が日本初の「チャンドラーの全長編を訳した翻訳家」になるのを楽しみにしています。
その前に「プレイバック」を早よ読まんとあかんのですがw。