鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「連続講義・デフレと経済政策」

・連続講義・デフレと経済政策 アベノミクスの経済分析
著者:池尾和人
出版:日経BP社(Kindle版)



出口治明氏のオススメ本リストからピックアップ。
アベノミクスに批判的スタンスを取る経済学者の本です。
質疑応答形式になってるので「分かり易い」方なんでしょうが、正直「?」の部分も少なくありませんでした。数式絡みのところは半分くらいは読み飛ばしたかなw。
それでいて、ナカナカ充実感のある読後感でした。



作者はアベノミクスの効果には批判的なんですが、そこに政治的な主張は薄いんですよね。
最新の学説とデータをもって、
「効果はないor少ないと思われる」
と言う論調で、「全否定」ってスタンスは取りません。
「現時点は分からない」
「あるいは効果が出てくるかも」
ってケースもあります。
ここら辺、
「ズルイ」
って見る向きもあるでしょうが、人間や社会を対象にしての話ですからね。
私は学者としての「誠実さ」を感じました。



アベノミクスは三本の矢で構成されています。
1 大胆な金融緩和
2 機動的な財政出動
3 民間投資を喚起する成長戦略
この「1」「2」について、作者は「予測可能性」「心理的要素」を狙って打ち出したものかも知れないとコメントします。
その実効性を政策当局が信じてるのかは何とも言えませんが、「市場」と向き合う視点から、そういう側面を狙ったんじゃないかと、私も考えています。
だとすれば、重要なのは「成長戦略」。
1・2で稼いだ「時間」で、根治治療である「産業構造の変革」に着手する。
これがアベノミクスのシナリオなんじゃないでしょうか?
だからこそ「3」が進まない現状に危機感を覚えると言う…



まあここに来てTTPやら、労働規制やら、JAやらに手を出して来て若干その姿勢は見せてますか(ことの正否は別として)。
ただそれ以上に米中韓との軋轢(最大原因は「靖国参拝」でしょう)やら、集団的自衛権の問題やらにエネルギーを割いてて、どこまで「構造改革」に政治資本を投入する気なんやら、今ひとつ判断し切れません。
経済成長に重要なのは「予測確実性」ですが、安倍政権は国会構成上は長期政権をうかがわせながら、戦後レジーム対応でその確実性を下げちゃっているような印象があります。
そう単純な話ではありませんが、「経済」と言う視点では、こうしたアンバランスな姿勢が懸念…ってとこじゃないでしょうか?
深慮遠望があったりするのかもしれませんが。



実験がしにくい社会現象を取り扱う学問では、因果関係を特定するのが結構難しいでしょう。
「後知恵はいくらでもつけれる」
って感じもあります。
でも作者はそうした可能性も想定しながら、出来る限り誠実に答えようとしてると思います。
僕は作者より、もうちょい「リフレ」寄りだと思いますがw、それでも「フムフム」と頷くことが少なくない作品でしたよ。



どこまで理解出来てるのかな
ってのはありますがw。