鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「大江戸釣客伝」

・大江戸釣客伝<上・下>
著者:夢枕獏
出版:講談社文庫(Kindle版)



「40歳を過ぎたら、三日坊主でいい。」を読んだ後に、「釣り」に狂した人物たちを主人公とするこの物語を読む。
狙ったわけじゃないんだけどw、ちょっとハマった感じもあって、これはこれで面白い読書体験だった。



「夢枕獏」は全作品を追いかけてるわけじゃないけど、それなりに読んではいる。
メインフィールドは「伝奇小説」と「格闘技小説」だけど、その系列から外れた作品が悪くない。
「神々の山嶺」なんかその「傑作」だけど、本書もなかなかイイ話だったなぁ、と。
何かドンドン長くなって先が見えなくなってる(失礼w)メインフィールドの作品に比べると、物語が締まってる感じがするとこがイイとも言えるかな。
こっちの時間の都合もあるんだけどさw。



本書は日本最古の釣り指南書を書いた「津軽采女」を主人公としつつ、「英一蝶(多賀朝湖)」と「室井其角」の友情と反骨精神を、「元禄」と言う時代(所謂「生類憐みの令」が流布された時代)を背景に描いている。
なかなか波乱万丈なんだけど、一番の読みどころはやっぱり「吉良邸討ち入り」だろうね。
これを吉良側から描きつつ(津軽采女は吉良上野介の娘婿になる)、「討ち入り」が「生類憐みの令」によってストレスが鬱積した社会の圧迫感に後押しされて行われたのではないか・・・ってのは面白い見方だと思う。
僕自身は「忠臣蔵」が大好きなんだけど、それでもチョット分からないことが多すぎるからね、あの一連の経緯には。
本書のような見方は十分に成り立つだろうな・・・ってのが僕の感想。



まあテーマが「釣り」だからね。
妖怪も出てこなけりゃ、男と男との闘いが描かれるわけでもない(「討ち入り」も描かれていない)。夢枕作品にしては色気もないほうだろうw。
それでいてこれだけ読ませる。
改めて「夢枕獏」の「腕」を再確認したってとこかな。
まだまだ途中になってるメインフィールド作品があるから、なかなか他に手を出すのは難しいかもしれないけど、個人的にはこういう作品のウエイトを上げて欲しいって感じになった。
それでアッチャコッチャで未完の作品が増えちゃってもこまるけどw。