鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

2019年にこの内容は驚く:読書録「電気じかけのクジラは歌う」

・電気じかけのクジラは歌う

著者:逸木裕
出版:講談社文庫(Kindle版)

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AI絡みの小説がないかな〜と正月休み中にネット検索してて見つけた作品
ミステリーというのも気楽に読めそうな感じがしたんで。
読んでみると、「気楽」でもなかったかなぁ。


(ChatGPT)
作品概要
著者の逸木 裕はフリーランスのウェブエンジニア業のかたわら小説を執筆。
2016年『虹を待つ彼女』で第36回 横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。
2022年「スケーターズ・ワルツ」(『五つの季節に探偵は』収録)で**第75回 日本推理作家協会賞〈短編部門〉**受賞。
2025年『彼女が探偵でなければ』で本格ミステリ大賞受賞
本作は2019年出版(文庫版は2022年)

“ミステリの骨格”を守りつつ、題材の当て方が現代的で、本作もAI作曲アプリ「Jing」が普及して作曲家が“絶滅”した近未来を舞台に事件の推理と並走して、
「AIが人より美しく作れるなら、人はなぜ創作するのか?」
というテーマを芯に据えている。


あらすじ
人工知能が個人に合わせて曲を作ってくれる作曲アプリ「Jing」が普及し、作曲家という職業が“絶滅”した近未来。
主人公は、かつて作曲家だったが今は「Jing」の専属検査員として働く男・岡部。

ある日、数少ない現役作曲家であり親友の名塚が自殺した知らせが届く。さらに名塚から、自分の指をかたどった謎のオブジェと、未完の新曲が送り届けられる。
名塚を慕うピアニストの梨紗とともに、その“遺されたもの”の意図を追い始めた岡部は、やがてAI社会の奥にある大きな謎へ近づいていく──。

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作品の中で重要な意味を持つ作曲アプリ「Jing」。
これって、「suno」を連想させます。
まあsunoは文章から音楽を作るので、「自分の好みの音楽をアップしてそれに近い音楽を作らせる」Jingとは基本的な機能が違いますが。
suno+Spotify…ってのがJingに近いのかもね。
ただsuno v4.5になって格段に作曲能力が上がってて、作曲ツールとしてsunoを位置付ける人も出てきている状況を考えると、2019年にこれを書いてるってのが1番の驚き。
作者はフリーランスのエンジニアらしいんで、技術の方向性が見えてたってのがあるのかもしれませんがね。


作品としては、
「 AIが人より美しく作れるなら、人はなぜ創作するのか?」
という問いの前に悩み続ける人物たちが試行錯誤するって感じになります。
ミステリーとしては「親友の自殺のワケ」ってのがあるんだけど、正直この点はピンと来るような、来ないようなってところでした。
クリエイターの苦悩が描かれ続けてるので、作品としては爽快感が薄くて、ちょっと読むのがしんどいところもあったかなぁ。
こういう流れになるのはわからなくないし、深く描かれているとも思うんですけどね。
ただ音楽のおけるsunoだけでなく、画像生成におけるnano banana pro、動画におけるsora等、手軽にクリエイトする手段がこの1年で出てきていることを考えると、作品で描かれたクリエイターの苦悩が現実世界でもリアルなものとなってきているとは言えると思います。(その中では実は音楽生成はまだ機能的に劣ってるくらい)


<『 Jing』が普及したおかげで、市井の人々は『 Jing』の曲を聴くようになった。これも、波及と言えるのではないですか?  
『 Jing』の中には、いままで奏でられてきた膨大な音楽の記憶があります。聴き手の感性やそれまで触れてきた音楽と、『 Jing』の持つ巨大な無意識が波及し合うからこそ、『 Jing』は新しい音楽を作ることができる。聴き手もまた、音楽という巨大なサイクルの中で、波及し合っているんです>


生成AIと人間との関係っていうのは、主人公がたどり着いたこういう関係性にならざるを得ないとは思いますけどね。
「ツールとして使う」あるいは「協同作業を行う」
なかったことにすることはできないし、その向こうには一歩突き抜けた別の世界がある…かもしれない。


好き嫌いはある作品とは思います。
僕はここにあるリアリティを評価したいと考えています。
ハッピーエンドとは言えませんが。


#読書感想文
#電気じかけのクジラは歌う
#逸木裕