鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「ダイヤの切っ先」の目が眩むような輝き:読書録「ギリシア人の物語Ⅲ 新しき力」

・ギリシア人の物語Ⅲ 新しき力

著者:塩野七生

出版:新潮社

f:id:aso4045:20200825132833j:image


「アレクサンダー大王」の生涯を追ったのが本書。

「全戦全勝」であれよあれよと言う間に大帝国を築き上げ、流れ星のように去っていった若者(死んだのは「32歳」!)の人生は、驚きと輝きと、一抹の哀しみに彩られていますが、読み終えて思うのは、

「なんと輝かしい!」

 


「アレクサンダー大王」ってなんとなくネガティブイメージだったんですよ。

基本的に「独裁者」ってのに対していいイメージがないってのもありますが、

暗殺された父親との関係やら、過干渉の母親の存在やら、何やらホモソーシャルな気配の濃厚な人間関係やら…

そんなこんなで、「傍迷惑な若者(バカもの)」のイメージが…。

 


でも本書を読むと、そういうネガティブイメージは何だったんだろう、と。

いや、そういう事実はある。

あるんだけど、そういうのを全部覆い隠すような、圧倒的な「輝き」がアレクサンドロスにはあります。

 


戦闘において常に「先頭」に立つアレクサンドロスを評して、「ダイヤの切っ先」と言います。

本書では古代における名将ハンニバル、スキピオ、カエサルの「架空対談」が想像されます。

圧倒的な才能と成果に恵まれた3人の武将たちは、自分たちを超える天才としてアレクサンドロスを評価する(これは史実のようです)。

それでいながら、「ダイヤの切っ先」に立つことはなかった。

なぜか。

<「なにしろ彼は、若かったからね」>

 


「若さ」故の「鮮烈な輝き」

 


それは確かにあります。

それでいて、例えば「源義経」に見られるような「危うさ」は少ない。

しっかりと前を見据えつつ、足元も固めながら、とんでもないスピードで駆け抜け、そして突然姿を消す。

その「死」は「ダイヤの切っ先」であり続けた代償でもあると考えられますが(満身創痍であったとのこと)、しかし「そうでしかあれなかった」のがアレクサンドロスその人なのでしょう。

「帝国を築いた」という実績ではなく、その生き方の「鮮烈さと輝かしさ」。

これはまあ、欧米の人たちが自分の子供の名前につけたがるのも分かりますわ。

 


塩野さんは本書で「歴史書」の著作を終えるつもりらしく、終章に若い人向けの文章をつけています。

最後の題材として「アレクサンドロス」を取り上げるとき、あらかじめこのことも考えてたのかどうかは分かりませんが、これまた「響く」締めになってます。

 


本書の出版は2017年12月。

出版されてすぐに購入して、3年近く「積読」w。

直近にユーラシアの歴史を読んで(「遊牧民から見た世界史」)、「歴史もの」が読みたくなって、本書を引っ張り出してきたんですが、

「何でもっと早く読まなかったんだろう!」

…って。

まあ、それは「Ⅱ」を読んだ時も思ったんですけどねw。

 


個人的にはやっぱり「カエサル」のような懐の深いリーダーに惹かれます。

だけどまあ、ここまで鮮やかだと、そりゃまあ好きにならずにはいられませんな、アレクサンドロスw。

良い意味で「考えを変えさせられた」一冊、となりました。