鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

すっきりしない展開ではあります:読書録「ギリシア人の物語Ⅱ」

・ギリシア人の物語Ⅱ  民主政の成熟と崩壊

著者:塩野七生

出版:新潮社

ギリシア人の物語II 民主政の成熟と崩壊

ギリシア人の物語II 民主政の成熟と崩壊

 

 

出版されたのは2017年の1月。もう次の3巻も昨年12月に出ています。

1年遅れでようやく手にしました。買ったのは出版されてすぐだったんですけどねw。

雪に閉ざされたこの土日で2巻・3巻と連続して読み上げるつもりだったんですが、あまりの展開の地味さwと重々しさに、2巻を読み上げるのがやっとでした。

ペルシアとの戦いを制し、ギリシャの盟主となったアテネが、民主政を完成させ、その後衆愚政治に陥り、実質上自滅するまでの75年間がこの2巻では描かれています。

 

前半は、民主政を完成させたと言われるペリクレスが主人公。

「形は民主政体だが、実際はただ一人が支配した時代」と言うツキディデスの言葉にある「一人」です。

それでいて民主政が最も完成させされた時代でもあったわけですね。

 

ただまぁ、この時代は平和な時代でもあり(偶然平和になったわけではなく、それはペリクレスの苦心の成果でもあったんですが)、地味と言えば地味。

ペリクレスが政治家として優れていたのは、言葉によって民衆を「誘導」する能力に高かったと言うところにあるわけですが、劇的な戦争での勝利があるわけでもなければ、政敵との死闘が繰り広げるわけでもないので、記載としては地味にならざるをえません。

(だからこそ、「民主政が最も成功した時代」と言われるわけですけど)

 

ペリクレスに関しては、パートのラストに開かれているエピソードがすべてを物語っているように思います。

 

<ペリクレスは批判や非難や中傷には慣れていた。だが、その日の男はしつこかった。

(中略)このアテネ市民は、公務遂行中も、夜遅くになって公務が終わって帰宅する道でも、灯りで道を照らす召使を一人連れているんだけのペリクレスに向かって、批判・非難・中傷の数々を浴びせつづけたのである。

家に帰り着いた時に、ペリクレスは初めて口を開いた。だがそれは、男に向けられたのではなく、召使いに命じた言葉だった。

「その灯りを持って、この人を家まで送り届けてあげるように」>

 

このエピソードに対する塩野さんの解釈。

 

<ペリクレスが男にいっさい応じなかったのは、言論の自由を尊重したからではない。

言論の自由を乱用する愚か者に対する、強烈な軽蔑ゆえの振る舞いである。怒りもしなかったのは、この種の愚か者の水準にまで降りていくのを、拒否したからにすぎなかった。怒りとは、相手も対等であると思うから、起こる感情なのだ。>

<こうも貴族的でこうも非民主主義的な男によって、アテネの民主政は、それ以前にもそれ以後にも実現しなかったほどに機能できたのであった。>

 

まぁ、エピソードとしては結構地味ですよねw。しかしペリクレスと言う人はそういう人であり、そういう人物に率いられた時代だったんですから、地味なのは当然。

その解釈は相当に辛辣ではありますが。

 

後半はペリクレスの死後25年でアテネが自滅に向かうまでを描いています。いわゆる「衆愚政治」の時代です。

 

なぜペリクレスのもとで機能していた民主政が、「衆愚政治」に陥り、わずか25年で自滅に至る道を歩まなければならなかったのか。

国内情勢の変化もあれば、世界情勢の変化もあります。ペルシアとの戦いから50年経って、流れが変わってきたと言うのもあるでしょう。

その中で、塩野さんは「リーダー」の違いを重視しているようです。まぁ「人」を重視する塩野さんのらしい見方ですけどね。

 

<民主政のリーダーー民衆に自信を持たせることができる人。

衆愚政のリーダーー民衆が心の奥底に持っている漠とした将来への不安を、煽るのが実に巧みな人。>

 

こう並べていますが、「衆愚政のリーダー」は厳密に言うと「リーダー」とは言い切れないんじゃないですかね。

ペリクレスと言う極めて優れた「民主政のリーダー」の後に、アテネはふさわしいリーダーを持つことができなかったと言うことでしょう。

 

もっともこの時代にも、可能性のあるリーダーはいるんですよ。

それがプラトンの「饗宴」にも出てきたソクラテスを称賛する「アルキビアデス」です。

塩野さんは途中にこの時代のリーダーの成績表みたいなものを載せているんですが、この中でアルキビアデスの評価は極めて高いです。(まぁ、アルキビアデスは美男だったようですから、塩野さんの点も若干甘いのかもしれませんがw)

 

しかしながら結局アルキビアデスは「民主政のリーダー」としてアテネで成功することはできません。

「成績表」や記述から見ると、塩野さんは結構「運」がアルキビアデスにはなかったと評価しているのかもしれません。(ソクラテスという「劇薬」を若い時代に飲んでしまったことも含めw)

ただ、その「運」自体、アルキビアデスの行動や選択が呼び込んだと言う部分も少なからずあるように僕は思えるんですよね。

そこがキャラ的には少し似たところがあるカエサルとは違う。

最後は「暗殺」で終わる2人ですが、成し遂げたことには大きな差があります。

いや、カエサルと比較しちゃいけないんですけどねw。

 

それにしてもこの後半、シチリア遠征の辺りは本当に暗い気分になります。

ここまでやること成すこと裏目に出るってことがあるんだなーって感じ。

一方のスパルタは、3人のアウトサイダーを次々と活用してアテネ追い込んでいくんですが、これも戦略的と言うよりは、スパルタ自身が持つ超保守性からやむを得ず取った策がたまたまあたったって感じで、そのことが後には続かないことがすでに示唆されています。

勝った方も、負けた方も、救われない展開と言うやつです。

読んでて、気分は上がりませんわね、これは。

 

<ギリシア世界を征服しようと大軍で侵攻してきたペルシアを迎え撃ち、完膚なきまでの勝利で追い返したことで、アテネの前に繁栄への道が大きく開かれた年からは七十五年後。

その繁栄を維持するだけでなく、さらに強大化するのに成功したペリクレスの死から数えれば、わずか二十五年後。

ギリシアと言えばアテネ、と言われてきた都市国家アテネは、紀元前404年に、滅亡は免れたにせよ、衰退がもはや確実、とするしかなくなったのだ。

(中略)

やはり、ソクラテスの教えは正しかったのだ。

人間にとっての最大の敵は、他の誰でもなく、自分自身なのである。

アテネ人は、自分たち自身に敗れたのである。言い換えれば、自滅したのであった。>

 

なんか、読み終えて「やれやれ」って言う気分になりました。

 

さて、次の第3巻では「アレクサンダー大王」が登場。(購入済み)

「英雄」を分析し、解説するのがうまい塩野さんですから、期待できます。

さて、いつ読もうかな。

 

…来年?w