鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

興味深く読んだんですが、「教養」とどう繋げればいいのかな?:読書録「教養の人類史」

・教養の人類史 ヒトは何を考えてきたか?
著者:水谷千秋
出版:文春新書(Kindle版)

f:id:aso4045:20240215120905j:image


国史学を専攻されておられる著者が大学(堺女子短期大学)での教養科目の講義をベースにして書かれた著作。
新聞の書評欄で取り上げられているのを見かけて、「面白そう」と思って購入しました。
面白かったですよw。


<歴史の中で人類が生み出してきた知の全体像を、幾人もの「巨人の背中に乗って」概観してきました。>
<専門の日本古代史研究のかたわら、ずっと知の総合化、知の全体像の構築を目指して、柄にもないことですが、「教養の人類史」を追求してきました。>(あとがき)


第一章 人類の進化と心のグループ
第二章 神話・宗教・文明の誕生
第三章 精神の革命ー枢軸時代・哲学の発生
第四章 人類史の構造をとらえる試み
第五章 東アジア世界から見た日本の文化
第六章 東洋哲学の可能性ー「無」と「空」と親鸞
第七章 現代史との対話ー明治維新と戦後日本
第八章 人類史と二十一世紀の危機
第九章 人間性の回復へー文学・芸術の役割


第一章〜第四章が「人類史」のまとめ
第五章〜第七章が「日本」に視点を置いた論考
第八章・第九章が「現代」への危機感への未来への視座


…って感じでしょうか。
前半「人類史」を追いかけていたのが、途中から「日本」を中心にした論考にスライドするのにはちょっと戸惑いも感じましたが、まあ作者も読者も「日本人」ですからね。
我が身に引き寄せて考えるなら、こう言う論が交わされるのも「あり」ではあるでしょう。
第七章で「明治維新」から「現代」までを、明治77年(明治維新から敗戦まで)/戦後77年(戦後から現代まで)と区切り、その77年で<ゼロ〜勃興〜衰退〜ゼロ>を一巡するとみて整理してるあたりはなかなか興味深かったです。


<ここから三度、この国が上っていけるのか。悲観的なようですが、歴史がくりかえすことはないように思います。むしろこれから進むべきは地球環境と共存していく「脱成長」の道ではないかと考えます。地球と人間の持続可能な道の追求です。>


「ここからの77年」を作者は<脱成長><コモンズ>の時代と期待しているようですが(柄谷行人の交換様式論などにも言及されています)、この点は僕は懐疑的ではありますがね。
まあ、ここら辺は僕らの次の世代が選ぶべき道かなとも思ってます。
あ、「東洋哲学」の可能性に言及しているのは面白いんですけど、そうだとしたら「近代の超克」批判なんかにも触れておいた方が良かったんじゃないかな、とは思いました。
ここら辺、釘を刺すのを忘れないことも「日本論」では重要なポイントと個人的には思ってますので。


作者は「教養」についてJ.S.ミルの言葉を引用しています。


<今から百五十年前、彼は新入生に向かって、大学で得る教養が何の役に立つのかについて語っています。彼は教養を学ぶことによって、「期待を決して裏切ることのない、利害を超越した報酬」が得られるのだ、といいます。その「報酬」の中身とは、

皆さんが人生を生きていく中で、心惹かれ、もっと知りたいと思うこと(インタレスト)が、より深く、よりバラエティー豊かなものとなること( the deeper and more varied interest you will feel in life)。  

だと言います。>


60歳を迎えようとする僕が、今後の人生を楽しんでいくには、僕の中に積み上げてきた「教養」次第…とも言えるのかな?
う〜ん、甚だ心許ない話ではあるな…。