・国体論 菊と星条旗
著者:白井聡
出発:集英社新書
最近、ちょっと評判になってるようなんで。
まあ面白かったですよ。
基本的には「明治維新から第二次大戦終戦」までと、「終戦後から現代」までを重ねて、その変遷を「国体」と言う概念から説明している作品です。
<このような情勢の中で、日本の近代は150歳(2018年は明治維新から150年にあたる)を迎えた。しかし、節目と言う意味では、2020年が最も重大な意義を帯びる。と言うのは、この年を迎えると、「戦前」(明治維新から敗戦まで)と「戦後」(敗戦から現在まで)の時間の長さが等しくなる(ともに77年間となる)のである。>
と言う歴史的時間にも重ねての整理ですね。
そして「戦前の国体」が「天皇(菊)」を中心に成立していたのに対して、「戦後の国体」が「アメリカ(星条旗)」を中心に成立している…と言うのが作者の主張です。
当然そこには政治的主張が含まれていますが、制度を構築した人々が制度を運営し、完成させていく段階から、そうした具体的な経験を持たない層が制度運営を行うようになり、観念的になり結局破綻する…と言う過程(形成期、安定期、崩壊期)を戦前と戦後に重ね合わせて論じているあたり、結構納得感あります。
「アメリカを仰いだ国体」って言うと、ちょっと陰謀論めいてきますが(そのことは作者も言及してます)、そう言う一視座が成立しうると言うのは言えるんじゃないですかね。
少なくとも、
「日本の保守が、なぜ対米従属に奔走するのか?」
と言う疑問には答えてくれます。
(対米従属を進展させるための改憲…とかね。まあリベラルの護憲もどうよ…ってのも本書では指摘されています)
個人的には、ちょっとキレすぎるかなとも思いますがw。
この切れ味は、観念としての論理性によると思うんですが、整合性すぎる観念は、現実や具象を切り捨ててる可能性もある…って感じるんですよね。
ここら辺、崩壊期の国体論にも通じる話ですなw。
<対米従属の現状を合理化しようとするこれらの言説は、ただひとつの真実の結論に決して達しないための駄弁である。そしてそのただひとつの結論とは、実に単純なことであり、日本は独立国ではなく、そうありたいと言う意思すら持っておらず、かつそのような現状を否認している、という事実である。>
そこまでとは僕は思いません。
しかし東アジア情勢が動く中、アメリカとの距離感をどう考えるか、アメリカがプレゼンスを下げる中で、中韓を中心とした東アジア諸国とどのような関係性を結んでいくか。
ここはしっかり考えなきゃいけないと思いますし、時として対米関係に対する思惑が、その視野を歪めさせてるんじゃないかな、と感じる時もありますね。
(それは右にも左にも言えることですがw)
読み始める前に思ってたよりも興味深く、面白い本でした。戦前の国体論なんかは歴史的事実として認定されつつあるレベルだと思いますし、分かりやすく整理されています。
それをベースに「今」を語る。
僕としては「あり」と思いますがね。