・夏物語
著者:川上未映子 ナレーター:ささきのぞみ
出版:audible
芥川賞を受賞した「乳と卵」を第一部として組み込み、第二部を加筆して長編とした作品。
評判が高いのは知ってたんですが、川上さんの作品は読んだことがなく(正確には村上春樹さんとの対談は読んでます)、題名のイメージから、何となく「懐かしい夏の物語」…みたいなものをしてたら、
全然、違ってた!
読み終えて、いや、audibleなので、「聴き終えて」、まだ自分の中で整理しきれないものが残っています。
というか、作品としては一旦の決着をつけているものの、本質的には「答え」がない話なんだろうな、と。
軽々と語ることを拒む「何か」がある作品だと思います。
元となった「第一部」は、実に面白い話です。
これをaudibleでチョイスしたのは、登場人物が「大阪弁」をしゃべると言うのがあって、それを聴いてみたかったからなんですが、期待違わず、大阪弁の喋りはテンポ良く、それが「笑い」時には「爆笑」を誘いつつ、それでいて深いところに踏み込み、終盤には感動が…と、実によくできていると思います。
作品の完成度だけを考えれば、ココまでで終わらせたほうが完成度高いでしょうね、こりゃ。(芥川賞獲ってるしw)
なのに、なぜ、それを延長した作品を書いたのか。書かなければならなかったのか。
女性の生き辛さ、女性性の難しさ、貧困
第一部にも背景にはそういったものがあるんですが、それを「家族」(そこに<父>はいないんだけど)の物語によって包摂するようなところがあります。
そこには温かさがあり、心も揺さぶられるんだけど…それでいいの?そこに「ごまかし」はない?
…で第二部になると、そこに「反出生主義」が突きつけられることになります。
生まれたこと/生きていることそのものが「地獄」であること
「家族」こそがその「地獄」の母体となっていること
そういうキャラクターを登場させることで、
<生まれることに自己決定はない。だが産むことには自己決定がある。この目も眩むような非対称>(上野千鶴子)
を作者は主人公に突きつけます。
第二部の終盤、このキャラクターとの対峙のシーンは息が詰まるようであり、頭がくらくらするような想いもありました。
その分、もしかしたら「物語」としての完成度は落ちたかもしれないんですけどね。ちょっと哲学小説っぽくなっちゃってるし。
それでも書かなきゃいけない「何か」が、作者にはあったんでしょう。
個人的には「善百合子」(反出生主義を主張する女性)が救われるところが見たかった。
でもそんな話は「夢物語」。
ありえないからこそ、彼女は彼女なんだろうな…とも。
主人公やパートナーとなる「逢沢潤」は、心の底では「生まれてよかった」と思っているし、その想いを支える「記憶」も「思い出」もある。
だからこそとりあえずのラストはこういうところに着地するんだけど、善百合子にはそんなものは一欠片もないのだから。
いや、まあ、ホントのところは僕には理解することができないとも思ってるんですけどね。
でも読んで(聴いて)良かったと思う作品でした。
こういう作家さんなんですね。川上未映子さんって。
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