・東京都同情塔
著者:九段理江 ナレーター:白妙あゆみ
出版:新潮社(audible 版)
この作品が芥川賞を取った時、文章を生成AIで書いているっていうのが評判になったんですよね。
「それは面白そうだなぁ」
と思って読んでみようと思ったんですけど、著者のインタビューなんか読むと、作品の中で生成AIが回答をしている部分を、実際の生成AIの回答を使ったと言うだけだったんですよね。
それじゃあんまり意味ないなぁと思い、その時は読むのをやめました。
あまり純文学系の小説は読まなくなってるのでw。
読んでみる気になったのは、オーディオブックになって、Audibleに収録されたから、
まぁAudibleなので「読む」ではなくて「聞く」ですが。
でもこれが聞いてみると、かなり面白かったんです。
失礼ながら、ちょっと意外でしたw。
サマリー
第170回芥川賞受賞作! 日本人の欺瞞をユーモ
ラスに描いた現代版・バベルの塔
ザハの国立競技場が完成し、寛容論が浸透したもう一つの日本で、新しい刑務所 「シンパシータワートーキョー」 が建てられることに。 犯罪者に寛容になれない建築家・牧名沙羅は、 仕事と信条の乖離に苦悩しながらパワフルに未来を追求する。
ゆるふわな言葉と、 実のない正義の関係を豊かなフロウで暴く、生成AI時代の預言の書。
(audibleより)
作品は
「東京都同情塔」を設計する女性建築家、彼女がママ活する美少年、寛容論を世に広めた学者、レイシストと言うレッテルを貼られているアメリカの記者
それぞれの視点での述懐や、書籍・記事の内容で作品が構成されています。
>犯罪者に寛容になれない建築家・牧名沙羅は、 仕事と信条の乖離に苦悩しながらパワフルに未来を追求する
この「サマリー」はどうかな?
そこまで明確な意図や方向性のようなものを、この建築家は持ってるようには思えないんですけどね。
彼女がこだわるのは「言葉」
そして、それぞれの登場人物たちがそれぞれの言葉で自分の身の回りの世界を定義し、解釈していく。
そういうところがこの作品の面白さだと思います。
逆に言うとテーマみたいなものはないんじゃないかなぁっていうのが僕の感想ですね。
いや、本当は作者の中にはあるのかもしれませんけどねw。
ザハの国立競技場については、僕は「作りは良かったのに」と思っています。
いや、隈研吾さんの作品が嫌いなわけじゃないんですけどね。
でも隈研吾さんの建築物はそれなりにいろいろありますから。
未来の風景としては、あのヌメっとしたザハの国立競技場が、東京の空白の中に置かれるっていうのは、それはそれで面白かったんじゃないか
…というのが僕の無責任な考えです。
あんまり賛同者がいるような話じゃないような気もしますけどw。
本作の中では、AIが吐き出す文章っていうのは批判的に捉えられていますし、インタビューの中でも作者もAIの文章に対しては批判的です。
一方で生成AI自体は結構いろいろ変わってきてる部分もあるし、今後も変わっていくでしょう。
そうなったときに、小説と言う分野がどういう風になっていくのかっていうのはそれはそれで僕は面白そうと思っています。
読む側としては、人間が書こうが、AIが書こうが特に関係ない。
…とまで言っちゃったら割り切りすぎかな。
標準的な文章は、どんどんどんどんAI的な文章になって、人間が書く文章というのは、人間しか書けないような内容や表現になっていく。
将棋とかの世界を考えると、そんな感じになるのかなぁ。
何を書くとか、何を面白いと思うかっていうのは、当分は人間の決めるエリアになるとは思いますしね。
…甘いかな。