・未来政府 プラットフォーム民主主義
著者:ギャビン・ニューサム、リサ・ディッキー 訳:町田敦夫
出版:東京経済新報社(Kindle版)
- 作者: ギャビンニューサム,リサディッキー,Gavin Newsom,Lisa Dickey,稲継裕昭,町田敦夫
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2016/09/30
- メディア: 単行本
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36歳にしてサンフランシスコ市長に選ばれ、今はサンフランシスコ副知事を務めている作者(ギャビン・ニーサム)が、ITを活用した政治体制について、自分の経験やITに詳しい識者の話なんかを交えて、具体的に論じている作品。
一言で言えば、
<自治体が持っているデータを民間に開放し、その能力・知識・開発力を駆使してもらって、ITツールを開発してもらい、それを自治体運営にFBする>
というもの。
作者自身がサンフランシスコ市政で取り組んだこともあるし、アメリカ政府や他の自治体が取り組んでることも紹介されています。
だから「夢物語」じゃないんですよね。
既に「実現している技術」。それをもっと広範囲に取り入れていくとともに、その中から新しい「民主主義」(より直接民主主義的な)の誕生を期待している…って感じでしょうか?
早い話が、
「やれるんだから、やれよ」
ってことw。
この点は全く賛同。
さらにその裏には「官僚主義的」なものに対する批判的スタンスもあります。
<「2つのワシントンが存在します。一夫はデータ重視の思慮深い問題解決者、他方は政治論議にかまけている人々。」>
これは単に「政治」だけの話じゃないですね。大企業なんかにも言えることです。(当然僕の会社も…)
「データ重視の思慮深い問題解決者」
あーだこーだ言ってる暇があったら、サッサと「問題解決」のための「行動には」をしろってことかな。
耳が痛いですなw。
…と言う訳で、方向性としては完全にこっちだと思ってるんですが、一方で作者ほど「楽観的」になれないとこもあります。
<「ブロードバンドがより広く普及し、スマートフォンやタブレット端末を手に入れる人々が増えれば、理性を基盤に自治のシステムを再興する彼らの能力が高まります」>
これはアル・ゴアの言葉ですが、「ホントかいな?」とも思うんですよ。
BREXITを巡るアレヤコレヤや、トランプ旋風、日本のネトウヨの動きなんかを見ますとね。
ITは確かに個人にパワーを与えてくれます。でも残念ながら「誰にでも」じゃないんですよね。
そこには「情報リテラシー格差」があるし、そこを突いて「ポピュリズム」や「党派性」が現実を歪めてしまうリスクがあります。
「企業」ならば構成員(社員)は(程度の差はあれ)「選定」される仕組みがあります。しかし「政治」はそれを許すべきではない。
そのベースを重視するのであれば、リテラシー格差は極めて問題です。
(監訳者が千葉での実例を紹介していますが、その「お寒い」状況はここに一端があるのではないか、と)
長期的にはそれも埋まっていく。
まあ、そうかもしれませんが、「長期的にはみんな死んでいる」(byケインズ)とも言えますからね。特に政治は「未来社会」を踏まえた「今」を問わなければいいけません。
大きな方向性はこうあるべきだと思いますし、ツールとしてITを政治に導入するのは絶対にやるべきだと思います。あーだこーだ言ってネガティブな方向に誘導する向きには何らかの「既得権益」を疑ってもいいくらいではないか、とw。
しかし「全てがそれで解決する訳ではない」。これも忘れちゃいけないことだと思います。
<21世紀の未来的な最新テクノロジーによってのみ、私たちは昔ながらの「コモンウェルネス」(コミュニティに存する公共の善や福祉)の概念を取り戻すことが望めるのだ。>
然り。
でもその「コモンウェルネス」は「誰にとって」のものであり、そこに党派性や差別性はないのか?
この問いにはITツールは答えてくれません。
ここを忘れちゃいけないと言うのが、僕のもう1つの感想です。