鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「職業としての小説家」

・職業としての小説家
著者:村上春樹
出版:スイッチ・パブリッシング

職業としての小説家 (Switch library)

職業としての小説家 (Switch library)


村上春樹が、
<自分が小説家としてどのような道を、どのような思いをもってこれまで歩んできたかを、できるだけ具象的に、実際的に書き留め>た(あとがき)「自伝的エッセイ」。


この路線だと、以前に「走ることについて語るときに僕の語ること」がありましたね。
あの作品は「走る」ことを語りながら、「小説家 村上春樹」の「あり方」のようなものにまで言及してるところがありましたが、本書ではよりストレートに「小説家であること」「小説を書くこと」について語られています。
「走る」ことについてもシッカリ言及されてはいますが、「走ることについて〜」と併せて読むのがいいんでしょうね、やっぱり。それくらい「走ること」は「小説家」としても「人間」としても「村上春樹」にとって重要な意味を持っていると思います。
それもあって、本書に先立って「走ることについて〜」が電子書籍化されたんじゃないかと、邪推しておるところです。


まあ後は「読んでください」としか言いようがないですかねぇ。
<本書では、これまで僕がいろんなかたちで書いたり語ったりしてきたことが、(少しずつ姿かたちは変えられているにせよ)繰り返し述べられることになると思う。>(あとがき)
と書かれてる通り、「へぇ、そうだったんだ」ってとこはあまりないかな、と。
でもだからって本書が面白くないわけじゃなくて、むしろ一気に読み終えちゃうぐらい興味深く、没入して読んじゃいました。
ビジネス本じゃないですからね。
「何が書かれてるか」
よりも、
「どう書かれているか」。
本書もまた、そんな村上作品でした。(もちろんテーマをないがしろにしてるわけじゃなくて、テーマと文体やスタイルが不可分という点が前提にあるんですが)


(個人的には「人称」を変えたことに関して言及してるあたり(第九回 どんな人物を登場させようか?)は「へえ?」って感じもあったんですが、どっかのインタビューあたりで言及してたような気がしなくもありません。
それを知ったからって、別に作品を読むにあたってのスタンスが変わるわけじゃないですしw。)


多分、これからも何回か読むんでしょうね、この本も。
電子書籍化された「走ることについて〜」も購入して、隙間時間に読み返してたりしますし。
村上春樹氏自身は「電子書籍」に対して否定的なスタンスは持ってないようですから、できたら全作品を早いところ電子書籍化して欲しいところ。
…ですが、ここら辺、国内の出版業界事情との絡みがあるんでしょうな。
どこまで効果あったのか知りませんが、アマゾンをめぐっての紀伊国屋書店の「攻勢」もあったように。(ちなみに私はアマゾンで本書を入手しました。「第1刷」だから紀伊国屋作戦をすり抜けて入手できたようです。下らない話ですがw)


しかし国内の文壇/出版業界に対しては村上春樹氏は思うところあるようです。
世代的にも心情的にも嗜好的にも一貫して「村上春樹ファン」だった僕にはちょっと分かりかねるんですが、随分と謂われなき批判を受けてきた様子。
ま、毎日きっちり1時間走って早寝早起きって作家は、あんまり「私小説」純文学には受け入れ難いかもしれませんなw。
その「村上春樹」を「救世主」として担ごうとしているかにみえる紀伊国屋書店戦術。
...なんだかなぁって感じもしませんか?