鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

作家だからこそ:読書録「みみずくは黄昏に飛びたつ」

・みみずくは黄昏に飛びたつ
著者:村上春樹川上未映子
出版:新潮社

みみずくは黄昏に飛びたつ

みみずくは黄昏に飛びたつ


「職業としての小説家」の出版の後に一回、「騎士団長殺し」の後に三回行われたインタビューをまとめた作品。
それぞれの作品について訊くと言うスタンスなんですが、「書き始める前にはプロットも立てない」という村上春樹
「作品解説」になるはずもなくw、むしろ「小説を書くとは」と言う話が中心になっていきます。
そう言う意味で「聞き手」も小説家だと言うのが本書が面白くなってる要因でしょうね。(僕は川上未映子さんの作品は読んだことないんですけど)


村上春樹にとっての「小説を書くとは」については、「職業としての小説家」にかなり具体的に正直に書かれています。
「なんかアスリートみたい」
って印象で、自堕落でアンモラルな小説家像に若干の憧れもあるw僕としては「拍子抜け」でもあるんですが、まあ村上春樹がそういう「創作姿勢」なのは前から知ってたんで、特に驚きはなかったです。
本書で村上春樹が語っているのも基本的には同じこと。そこに「発見」はないんですが、「聞き手」が作家であることで、そこに聞き手自身のスタンスや価値観がにじみ出てきていて、その交差具合が「読みどころ」になってます。


川上さんが、
「実はこうなんじゃないんですか〜」
と迫ってくるところを、
「いやぁ、ホントそうじゃないんだよなぁ」
と村上さんが答えていく。
その最中に、作家としての呼応や、切り込みが垣間見えます。
個人的に一番読みどころだったのは、「文体」の部分と、村上作品における「女性の役割」について語られるところでしたね。


「文体」については、もちろん村上春樹はコレを最大の「武器」としてるんですが、それを巡る日本の文壇のあり方、さらには川上未映子氏自身の経験や「戦略」が興味深く語られています。
川上氏の「乳と卵」は読まなあきませんな。


「村上作品における女性の役割」に関するやりとりは、本書で最もスリリングな箇所。
フェミニズムの立場から提示される川上氏の質問への村上氏の回答は、やや他と違って、「確信」を欠くような印象があります。
もちろん村上氏が挙げているように、決して物語の何らかのキッカケのような「役割」を与えられた女性ばかりが出てくるわけじゃないんですが、それでも川上氏の指摘は村上作品のある種の「弱さ」を突いているように感じました。
僕が「騎士団長殺し」に感じたちょっとした違和感も、そこら辺に通じるところがあるのかも。(楽しく読ませてはもらったんですが)


まあお互いのとって満足のいくインタビューだったようですが、確かに読み応えのある、興味深いインタビューになっています。村上作品を読む人にとっては楽しめる本かと。
ただし「職業としての小説家」と「騎士団長殺し」は事前に読んでおくべきでしょうが。
「ネタバレ」もありますのでw。


PS 二人の対話を自分の文章に活かしたい…ってなことを考えると、な〜んも書けなくなるような気がするので、あえて本文はホボ推敲なしでアップしちゃいました。
ご容赦のほどを。