鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「零戦」

・零戦 その誕生と栄光の記録
著者:堀越二郎
出版:講談社文庫(Kindle版)



昨晩放映された宮崎駿と半藤一利の対談番組を観ていると、宮崎駿が本書を挙げて、
「堀越二郎は本当のことは書いていない」
「言わないと決めた人だ」
といったことを発言していた。
その通りだと思う。



本書は「零戦」の開発の経緯を設計士の立場から描いている。その中では海軍からの厳しい要求やそれを乗り越えるための工夫と苦闘、完成するまでの犠牲等々が描かれ、輝かしく、やがて哀しい零戦の活躍と末路が記されている。
その中で堀越氏がどのような立場で、何を考え、どのようにして対処して行ったか。
勿論、そうした堀越氏のドラマもある。



だが、本当のところで彼が何を考えていたのか。
「戦闘機」という「戦争の武器」を開発する中で、おそらくは戦争の末路に対して楽観的な観測を殆ど持たなかった人物が、自分自身の能力と希望をどのようにとらえ、それを「現実」との中でどう折り合いを付け、どのようにして終戦を迎え、時代に翻弄された自分の「成果」をどのように噛み締めて生きたのか。
本書では殆どそういったことは語られていない。
語るべきではない。
そうとすら思っていたのかもしれない。
そこに宮崎版「風立ちぬ」が生まれる「空白」があった・・・とでも言うべきか。



かつて「零戦」に心躍らせた時期のある元・少年として、技術後進国でありながら世界の水準を一等地飛び抜ける能力を持ち、華々しい成果を上げた「零戦」の誕生話を改めて読むのは実に楽しかった。(もしかしたら昔、一度読んだことがあったかもしれないけどw)
限られた条件と、現実離れした要求と狭間でベストを尽くし、能力の果てに「奇跡」を生みだす過程は、スリリングですらある。
それが「戦争の道具」であり、遂に「帰らぬ器」となって戻らぬ運命を持っていること。
そのことを今は知ってるんだけど・・・。



っていうか、「風立ちぬ」を観ちゃうと、そんな風にしか読めなくなっちゃうよなぁw。
映像の力って、そういうところがあるから、「素晴らしく」「恐ろしい」。
まあ本書を読んで、「結構、肝要なところは押さえてるな」と、あの映画については思ったけどね。
映画を観て、恋愛の方じゃなくてw、飛行機設計の方に興味を覚えた向きには興味深い一冊だと思います。