鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「極悪女王」の向こう側。プロレスとは何かを突き詰める:読書録「1985年のクラッシュ・ギャルズ」

・1985年のクラッシュ・ギャルズ
著者:柳澤 健
出版:文春文庫(Kindle版)

f:id:aso4045:20241012213517j:image


Netflixドラマ「極悪女王」の背景をもうちょっと深掘りしたくて、読んでみました。
Kindle Unlimitedになってたし。
しかし予想してた以上に深くて、遠くに連れてきてくれる作品だったなぁ。
この作品や「1976年のアントニオ猪木」が読み応えあるって評判は聞いてたんですが、予想以上でした。
一気読みしちゃいましたよ。

 

本の概要
1985年8月28日、 大阪城ホール。 全日本女子プロレス興行。 会場は10代の少女で埋め尽くされた。 彼女たちの祈るような瞳がリングに注がれる。 クラッシュ・ギャルズは私たちの苦しみを背負って闘っている、クラッシュ・ギャルズのようにもっと強く、もっと自由になりたい――。 長与千種とライオネス飛鳥、そして二人に熱狂した少女たちの 「あのとき」 と 「あれから」。 25年間の真実の物語を描きます。
『1976年のアントニオ猪木』に続き、 プロレスをテーマに選んだ著者入魂の一作。

(Amazonより)


クラッシュギャルズのデビューは、1984年。
題名の1985年はクラッシュギャルズの人気が絶頂中に、一時期ライオネル飛鳥が活動停止した時期でもありますね。
作品では、クラッシュギャルズのデビューから長与千種、ライオネル飛鳥が苦闘しつつ、人気者になり、一方でプロレスを追求していく姿を描きいています。
「極悪女王」でラストになったダンプ松本の引退試合(1988年)は序盤中盤あたり。
千種と飛鳥の軋轢が大きくなり、それぞれが引退をし、全女から離れて再デビュー。
女子プロの新しい流れに翻弄されながら、ソロ活動をして新しい自分を見つけていき、クラッシュギャルズ2000で再結成。
そして長与千種の再引退と共にGAEAが崩壊するまでをフォローしています。
まぁ、日本における女子プロレスの歴史をフォローしていると言ってもいい内容なんじゃないでしょうか。
むちゃくちゃ読みがいありました。


取り上げられているのはもちろんクラッシュギャルズと彼女たちをフォローする1人のファンなんですけど、描かれているのは
「プロレスとは何か」
と言う問いかけへの答えの模索、と言ってもいいかもしれません。
「極楽女王」では「ブック」という言葉で、プロレスにおけるシナリオの存在について踏み込んでいました。
ジャガー横田がYouTubeか何かで「そんな言葉は聞いたことない」と言ってたようですが、そういう単語があったかどうかっていうのとは別に、プロレスが勝ち負けを重視した真剣勝負のスポーツとは違うっていうのを「極悪女王」では描きたかったんでしょう。
この作品では、そんな事はもう大前提となっています。
その上で見るものを感動させる「プロレス」と言うのは何なのか
その意味においては天才であった長与千種を中心として、女子プロレスラー、その何かを追い求める姿が描かれていると言ってもいいかもしれません。
レスラーとしての素質は飛び抜けていながら、プロレスラーとして長与千種に及ばなかったライオネル飛鳥が、ヒールを経験することによって「プロレスラーとは何なのか、プロレスとは何なのか」に行きつき、満足して、最後は引退していく姿は印象的です。
と同時に女子プロが時代を牽引する役割を超えたことにも、本書はクールな目を向けています。


<クラッシュ・ギャルズが引退した一九八九年以後、低迷を続けた女子プロレスを変えたのはブル中野とアジャ・コングだった。以後、女子プロレスは危険に充ち満ちたものへと変貌し、団体対抗戦ブームは女子プロレスをついに東京ドームにまで導いた。一九九四年十一月のことだ。  
一九九〇年代に女子プロレスを支配したのは「危険で激しいプロレスでなければ客を呼べない」という思想であり、その結果、プラム麻里子( JWP。九七年に試合中の事故で死去)という犠牲者を出した。  
そして二〇〇〇年五月。九〇年代女子プロレスの常識を覆したのは、新時代のプロレスではなかった。  
皮肉なことに、八〇年代のクラッシュの復活だったのだ。  
試合終了直後、マイクを取った飛鳥はこう叫んだ。
「みんな!  勝ったぞ!  賭けに勝ったんだ!  クラッシュ 2000は新しい時代の扉を開けたぞ!」  
飛鳥の言う〝新しい時代〟とは、まもなく三十七歳になるライオネス飛鳥と、三十五歳の長与千種が女子プロレス界に君臨する時代に他ならない。  ふたりに辛うじて対抗する力を持つのは、三十八歳のデビル雅美であり、三十二歳の北斗晶であり、三十一歳の尾崎魔弓であり、三十歳のダイナマイト関西であり、二十九歳の豊田真奈美であり、同じく二十九歳のアジャ・コングであった。  
観客の平均年齢も三十歳を超えつつあった。  
この時、女子プロレスは未来を失ったのだ。>


「極悪女王」に続編があるとしたら、ブル中野とアジャコングを主人公にして、金網デスマッチをピークに、ブル中野が渡米する位を描くのがちょうどいいんじゃないかなぁと思ってたんですけど、この本を読むと、ヒールになったライオネル飛鳥を主人公にして、女子プロレスの終焉まで物語を続けることもできそうですね。
いや、やるかどうか知らんけどw。


これだけ面白いとなると「1976年のアントニオ猪木」も読むべきかなぁ。
しかしアントニオ猪木はなかなか複雑だからなぁ。
こっちの気持ちも引っ張られちゃうところがあるからね…。


#読書感想文
#1985年のクラッシュギャルズ
#極悪女王