・蒲公英王朝記<巻ノ一、巻ノ二>
著者:ケン・リュウ 訳:古沢嘉通
出版:早川書房
「紙の動物園」のケン・リュウによる武侠小説。
「項羽と劉邦」をベースに、架空の世界での壮大な戦国絵巻を描いています。
「繊細なあの短編を描くケン・リュウが…」
と思うんですが、読んでみると、壮大なストーリー展開は「項羽と劉邦」になぞらえつつ、エピソードにおける繊細な表現や心の動き、キャラクターの関係性の変遷なんかに、ケン・リュウらしさが強く出てる感じですかね。
(巻ノ二の戦闘シーンなんかにはSFファンタジーらしさも出てきています)
…で、結構楽しませてもらったんですが、読むのには時間がかかりました。
2週間くらいかかったんじゃないかなぁ。
上下巻、700ページを超える長さももちろんあるんですが、それ以上に一気に読み進める気分になれなかった、と言うか…。
正直言えば「項羽と劉邦」に関する知識が邪魔をして、読み進めるのを妨げたってのがあります。
Amazonの評なんかを読むと、
「<項羽と劉邦>を読む方がマシ」
みたいなコメントもあるんですが、僕はそうは思わないですね。
SF的な仕掛けや、キャラ設定の巧みさ、感情の機微の持って行き方等、文章表現の繊細さ以外にも本書には読みどころがあって、それは「項羽と劉邦」を借りながらも、新しい作品価値を本作にもたらしていると思います。
ただねぇ。
僕って「項羽と劉邦」って随分と昔に司馬遼太郎のを読んだくらいなんですよ。
大まかな展開は分かってるけど、登場人物や細かいエピソードの方はあやふや…
これくらいの知識の人が本書を読むのが一番ダメかもしれませんw。
要は気になるわけです。
「これって史実や<項羽と劉邦>の物語ではどうだっけ?」
って。
知らなきゃケン・リュウの語りを楽しめるし、詳しければ「ああ。これはあれを下敷きか」とすぐに比較ができる。
「たしかあったような気がするけど、どうだっけ…」
このモヤモヤがちょっと遠ざけたりするわけですねw。
結局は面白いんで読むんですけど。
巻ノ二に入って、特に「韓信」が登場してからは相当に面白くなります。
「韓信」のキャラ設定、そこから広がる「女性」の扱い方
「項羽と劉邦」を超えた面白さがそこにはあります。
読み終えて、
「ああ、面白かった」
と思ったのは間違いないです。
本作は3部作の1作目で、既に2作目も本国では発表されているとか。
さて、続きが翻訳されたらどうするかなぁ。
史実をなぞるなら、漢帝国の初期は相当に暗鬱な事件が続くはず。
本作でもそれを匂わせる設定はされています。
「ゲーム・オブ・スローン」的な展開を楽しむつもりなら読んでもイイのかもしれないけど…
ちょっとなんとも言えないです。
ま、出版されたら、その時考えるかなw。