鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「項羽と劉邦」がノイズになりました:読書録「蒲公英王朝記」

・蒲公英王朝記<巻ノ一、巻ノ二>

著者:ケン・リュウ  訳:古沢嘉通

出版:早川書房

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「紙の動物園」のケン・リュウによる武侠小説。

「項羽と劉邦」をベースに、架空の世界での壮大な戦国絵巻を描いています。

「繊細なあの短編を描くケン・リュウが…」

と思うんですが、読んでみると、壮大なストーリー展開は「項羽と劉邦」になぞらえつつ、エピソードにおける繊細な表現や心の動き、キャラクターの関係性の変遷なんかに、ケン・リュウらしさが強く出てる感じですかね。

(巻ノ二の戦闘シーンなんかにはSFファンタジーらしさも出てきています)


…で、結構楽しませてもらったんですが、読むのには時間がかかりました。

2週間くらいかかったんじゃないかなぁ。

上下巻、700ページを超える長さももちろんあるんですが、それ以上に一気に読み進める気分になれなかった、と言うか…。

正直言えば「項羽と劉邦」に関する知識が邪魔をして、読み進めるのを妨げたってのがあります。


Amazonの評なんかを読むと、

「<項羽と劉邦>を読む方がマシ」

みたいなコメントもあるんですが、僕はそうは思わないですね。

SF的な仕掛けや、キャラ設定の巧みさ、感情の機微の持って行き方等、文章表現の繊細さ以外にも本書には読みどころがあって、それは「項羽と劉邦」を借りながらも、新しい作品価値を本作にもたらしていると思います。


ただねぇ。

僕って「項羽と劉邦」って随分と昔に司馬遼太郎のを読んだくらいなんですよ。

大まかな展開は分かってるけど、登場人物や細かいエピソードの方はあやふや…

これくらいの知識の人が本書を読むのが一番ダメかもしれませんw。

要は気になるわけです。

「これって史実や<項羽と劉邦>の物語ではどうだっけ?」

って。

知らなきゃケン・リュウの語りを楽しめるし、詳しければ「ああ。これはあれを下敷きか」とすぐに比較ができる。

「たしかあったような気がするけど、どうだっけ…」

このモヤモヤがちょっと遠ざけたりするわけですねw。

結局は面白いんで読むんですけど。


巻ノ二に入って、特に「韓信」が登場してからは相当に面白くなります。

「韓信」のキャラ設定、そこから広がる「女性」の扱い方

「項羽と劉邦」を超えた面白さがそこにはあります。

読み終えて、

「ああ、面白かった」

と思ったのは間違いないです。


本作は3部作の1作目で、既に2作目も本国では発表されているとか。

さて、続きが翻訳されたらどうするかなぁ。

史実をなぞるなら、漢帝国の初期は相当に暗鬱な事件が続くはず。

本作でもそれを匂わせる設定はされています。

「ゲーム・オブ・スローン」的な展開を楽しむつもりなら読んでもイイのかもしれないけど…

ちょっとなんとも言えないです。


ま、出版されたら、その時考えるかなw。