・国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか
著者:デービッド・アトキンソン
出版:講談社+α新書
「もうアトキンソンさんはイイかなぁ」とも思ってたんですがねw。
前に読んだ「日本人の勝算」を補完するような作品らしいのと、消費税増税前の駆込みで買っちゃいました。
<読書録「日本人の勝算」>
http://aso4045.hatenablog.com/entry/2019/03/21/103825
ポイントはこんな感じですかね。
①急激な人口減少(就中、労働人口は)に見舞われる日本にとって「労働生産性向上」は(経済面のみならず、社会保障制度の維持という点から)急務
②日本の生産性が低いのは中小企業が多すぎるため。人口膨張期には(雇用増進という点から)一定の役割があった中小企業対策(1964年体制)が、人口減少期にミスマッチとなり大ブレーキとなっている。
③制度的には「中小企業の定義が、ミクロ規模の企業となっている」ため規模が大きくなるインセンティブが働かなくなっている。
④心情的には「人口ボーナス」による経済成長を、「中小企業神話」と錯誤してしまっており(「下町ロケット」)そのことが制度の改革を躊躇させている。(逆効果のケースもある)
⑤方向性としては中小企業を「統合」して規模を大きくし、生産性向上のための資本投下をしやすくしていく必要がある。そうしたとしても(労働人口が減少しているので)失業率は上がらない。
⑥多くの中小企業経営者は「現状維持」を望んでいることから、「労働生産性向上」という「国益」のためには強制力を働かせなければならない。それが「最低賃金引き上げ」である。
⑦最低賃金でしか従業員を働かせず、生産性向上のための資本投下(その中には人材育成も入る)もできない経営者は「無能」と言わざるを得ない。
⑧超大規模地震・自然災害のリスクが高い日本には(安政期にあったような)壊滅的な損害のリスクがある。現状のままではそのとき助け舟を出せるのは「中国」しかなく、その先には中国属国化の道がある。それを避けるためにも、「労働生産性向上」による国力アップは急務である。
「日本人の勝算」で「日本にはまだ生産性を向上させる余地が大きくある。そのためには最低賃金引き上げがキーとなる」と論じていたアトキンソンさんが、その際の最大障壁となる「中小企業問題」に焦点を当てたのが本書ということになります。
う〜ん。
論理的には
「そうだよな〜」
と思うんですよね。
自分が関わっている業界や仕事のことなんか考えても。
一方で、
「しかしそれでええんかいな」
とも思わなくもない。
・小規模でも十分に利益を上げてる中小企業をどう考えるか
・飲食店やサービス業の「多様性」がなくなることのつまらなさ(1店舗しかないけど特色のある飲食店とかね)
・工夫やアイディアの反映しづらい労働集約的な業務の生産性向上の可能性
・法律等の規制多重な下請け構造がある中での「最終価格」の硬直性(賃金引き上げが反映しづらい等)
etc,etc
もちろん「企業規模が大きくなった」=「多様性なくなったり、アイデアが活かされない」ってことじゃなくて、これはこれで「大企業組織のあり方」における日本の課題って方につながってくるんですけどね。
(そんなこと言ってたらGAFAとかどやねん、って話になるw)
それでもモヤモヤはやっぱりあるんだよなぁ。
ただまあ、「経営者の問題」≠「労働者の問題」ってのは事実ですね。
メディアに出てくるのは「大企業経営者」の話が多いけど、その末端現場が「最低賃金」で動いてることなんかを考えると、「その給与で、この判断はどうよ」と思わなくもなかったりして…。
アトキンソンさん自身は「中小企業の経営者」。
それでありながらこういう提言をするってのは、それはそれで一目に値すると思いますよ。
まあ、自分は「労働生産性を上げる=給与アップする」ことに自信があるんでしょうね。
国としての大きな方向性は最賃引き上げによる給与アップへの取り組みを行っていく。
その中で個々の企業がどうするかは「経営者次第」。
…って話かな。
「モヤモヤ」はその中で解消していくしかないか、と。
消費税アップに伴うシステム投資ができずに廃業する中小企業のお話。
胸が痛みます。
でも「そのコストが負担できない」企業は、少なくとも「給与を継続的に引き上げていく」ということも出来ないでしょう。(家族経営だから、給与は上がらなくても…という見方もありますが、そういう価格設定をすることで、近隣・業界の価格引き上げを阻む要因となっています)
ここはリアルに考えるべき。
モヤモヤするけどね…。