・日本人の勝算 人口減少×高齢化×資本主義
著者:デービッド・アトキンソン
出版:東洋経済新報社
「新・所得倍増論」「新・生産性立国論」などで日本の生産性向上について提言してきたアトキンソンさんの新作。
前作との違いは、自分の論考だけではなく、数多ある先行的な研究論文を引いてきて、考察を組み立ててるところですかね。
ま、僕はそういう原論文にあたるヒマも能力もないので、結局はアトキンソンさんのお話を聞いた…って感じになっちゃってますがw。
超高齢化社会を迎え、巨額の社会保障費用を賄う必要がある(そうでないと社会の安定性が損なわれることになる)日本においてはGDP(一人当たりではなく、マスとして)の維持が重要。
という前提条件に立った上で、
<本書では、3つのことを提言してきました。
1つ目は、生産性向上にコミットしてこう生産性・高所得資本主義を実施すること。
2つ目は、それを可能にするために企業の規模拡大を促す、統合促進政策を実施すること。
そして、3つ目は、単に制度を整備するだけではすべての民間企業が国も狙いどおりに動くはずがないので、津々浦々の企業に動いてもらうため、最低賃金の継続的な引き上げを行うこと。>
この「最低賃金引き上げ」が結構インパクトを持って取り上げられていますが、作者の意図は「社会保障としての最低賃金引き上げ」ではなく、「生産性向上実現のための経済政策としての最低賃金引き上げ」になります。
まあ、ぶっちゃけ「経営者の<言い訳>を封じ、生産性向上に取り組ませるために<尻を叩く>」ため、ですね。
だから「個人の継続的生産性向上」についての言及もあり、「生涯学習」実現の制度提案が「4つ目」に挙げられています。
「最低賃金引き上げ」については「失敗例」として韓国のことがすぐに頭に浮かびますが、この点ももちろん言及されています。(引き上げ率が高すぎたことが原因)
しかし個人的には最低賃金においてすでに韓国に日本の方が劣後してるってことの方がインパクトありましたが…。
正直、「最低賃金引き上げ」については「ニワトリタマゴ」の部分があると思うけど、たしかにここまで来たら御託言ってても仕方ないんで、「やるべし」かもしれんなぁ。
相当に激しい反発や混乱も考えられると思うけど(結構他人事じゃないトコもあります)、アトキンソンさんの言うことも分からんでもない。
生産性向上をしつつ、価格転嫁の連鎖も実現する必要があるけど、そのためには「中長期的計画を示しつつ、強制力を持って実施する」ってのは、経営者の尻を叩く上においてポイントになると思いますしね。
観光政策(インバウンド政策)についてはアトキンソンさんの提言は実現してきた様にも見えます。
最初読んだ時は「わかるけど、なかなか…」って印象でしたが、現実はそれを超えてるスピード感も…。
そういう意味では本書の提言なんかも、受け入れられる余地はあるのかもしれないなぁ…と。
立憲民主党あたりが、「社会保障政策」と混同して、へんな取り上げ方しちゃいそうな懸念もなきにしもあらず…とか思ったりもしますがw。
ちなみに、ここら辺も痛かったですよ。
<日本人の「変わらない力」は異常
(中略)
なぜ、こんなにも頑なに変わろうとしないのか。変わる必要がないと思っている人たちは、こんな理屈を述べ立てます。
日本は世界第3位の経済大国である
戦後、日本経済は大きく成長してきた
日本は技術大国である
日本は特殊な国である
よって、日本のやり方は正しいし、変える必要はない
私が「変える必要がある」と指摘すると、次のような反論が返ってきます。
日本はお金だけじゃない、もっと大切なものがあるんだ前例がない
海外との比較は価値観の押し付けだ今までのやり方は日本の文化だ
見えない価値がある
データ、データと言っても、データはいらない
さらに、本音を言う人は「俺はこれ以上がんばるつもりはないよ」と言います。
(中略)
日本企業は、自由にさせておくと、生産性を向上させる方向に向かわないことは、これまでの歴史を振り返れば明らかです。だとしたら、強制的にやらせるしかありません。それには最低賃金の引き上げが最適です。>
ファックスで送られてきた注文書に、捺印して、ファックスで送り返している自分としては否定しきれんトコもあるかな、と。
PS ただし、チャレンジングな取り組みをしてるイギリスが政治的には…とは思いましたが。