・MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ
著者:日高洋祐、牧村和彦、井上岳一、井上佳三
出版:日経BP社
トヨタがイーパレットを発表してモビリティサービスに本気になったあたりから、MaaS(Mobility as a Service)のことは気になってましたし、ソフトバンクとの提携でその「本気度」を再確認したんですが、そこらへんをよりリアルに感じたのは、「イコライザー2」を観て、でした。
http://aso4045.hatenablog.com/entry/2018/10/11/063052
デンゼル・ワシントンが演じる主人公は、この中でリフトのドライバーになってるんですよね。
ウーバーやリフトのライドシェアのことは知識としては知っていましたが、実際にどういう風に使われてるのかってのは(海外に行かないもんでw)実感としてあまりありませんでした。
映画の冒頭で主人公がスマホを使ってスムーズに仕事をこなしていく姿。
このスマホのUIのスムーズさは予想以上でした。
加えて中国を中心に進展しているスマホを中心とした消費者本位のエコシステムの急速なな広がりと深化に関する情報。
ここら辺が頭の中でリンクして、
「モビリティ革命って、僕が考えてる以上に<近い将来>の話じゃないの?」
とアラームが鳴りました。
本書を手に取ったのは、そう言う思いがあって、です。
結論から言えば、「読んでよかった」。
そして予想通り、MaaS がもたらすモビリティ革命ってのは、思っている以上に<実現>のハードルが低いと言うのも実感できました。
…と言うか、「技術的には実現可能」。
ま、こんな風にスマホを中心にしたエコシステムを作るわけですが、たしかに「出来る」だろうと思います。
課題は各交通機関等関係者の<合意>にあるんですが、海外ではその点もすでに進んできており、「実装」段階に来ているものも(先行しているフィンランドのWhimをはじめ)結構あるんだなぁ、と。
そこらへんの具体例を豊富に紹介してくれるのが本書の良いところでもあると思います。
豊田章男氏が相当な危機感を持つのも、遅ればせながら理解できました。
(自動運転がよく取り上げられますが、MaaS という観点からは、「最後の大きなファクター」であるものの、エコシステムの構築に関しては特に「自動運転」は必須のピースじゃないんですよね。ここも僕の「思い違い」でした)
MaaS をどう整理するかってのは、なかなか難しいし、実際には「こう」という定形があるもんでもないんですが、簡潔に言えば、
・スマホを中心として、「移動」に関するシームレスなユーザー本位のエコシステムを構築する
・価格設定・支払いは個別に分割されるのではなく、定額制も含めたユーザーにわかりやすく有利な仕組みとなっている
ってとこがポイントじゃないかなぁ、と。
特に後者の方はあまり表には出てこないんだけど、実は「キモ」の部分じゃないかと思います。
じゃあ、日本はどうか?
Mobilityという点では、自動車技術や公共交通機関の運用技術なんかについて高度なものを持っていることが有利なことは間違いないでしょう。
ただ、
「先行して精緻な仕組みを「民間主導」で作ってしまっているだけに、そこに横串を刺して仕組みを作ることにハードルがある」
のと、
「ラストワンマイルを担う、シェアビジネス(特にライドシェア)が根付いていない」
ってのは大きな障害ですね。
特にタクシー業界の反対で実質上ウーバーもディディもタクシー配車に限った参入しかできていない点は、MaaSのエコシステム上は相当にマイナスです。
タクシー会社も配車アプリやってますが、相互承認・評価のない仕組みじゃ、全くダメですね。
さらに「ラストワンマイル」を担うには圧倒的に台数が少ない。台数が少ないから、価格も高い。価格が高いから、ラストワンマイルに気楽に使えない…と悪循環。
ここは何とかして欲しいところです。(自動運転車がココを担う可能性はあって、そういう意味では日本においてはMaaSの本格構築に自動運転車が必須となる可能性があります。
それじゃ「遅すぎる」んですが…)
まあ、ここら辺、日本でも地域限定での実験が始まってるようなので、その結果に期待したいところではあります。
福岡あたりで色々やってるようですが、実際のとこどうなのか興味があります。
オリンピックや万博なんかで海外からの観光客が飛躍的に増えることなんかも考えると、ここら辺をきっかけに規制緩和も含めて、大きく前進するかも/して欲しいなぁ、と思います。
それができなきゃ、「Society5.0」とか、絵に描いた餅でしょう。
ちなみ「損保」もMaaSで大きく変わる可能性があります。
保険がなくなる…ってことはないでしょう。(自動運転が完全普及したら、相当リスクは減るでしょうが、それはかなり先)
しかしMaaSは「所有」から「使用」へのシフトを大きく切りますし、定額制等の支払い方なんかが入ってくると、保険負担の仕方や支払い方も相当に変わって来てしまいます。少なくとも、「個人が契約して年間保険料を払う」という形ではなく、「使用量に応じて、プラットフォーム業者に支払う」もしくは「使用者が払う定額料金の中から、使用量等に応じてプラットフォーム事業者が支払う」って形になるんじゃないか、と。(その保険会社自体をプラットフォーム業者が担うことも考えられます)
そういう中で、如何にして保険会社や保険代理店が自分たちのあり方を再定義していくのか。
これが大きく問われることになると思います。
示談や、ロードサービス・修理紹介、代車、各種の付随サービスの提供…ここら辺のウエイトが上がってくるんじゃないかなぁ、とは思うんですが、これはどういうエコシステムが日本のMaaSとして組み上げられるか、ってのにもよるので、即断はできないところ。
ポイントは「ラストワンマイル」がどういう風になるか、かなぁ。
個人的には日本におけるMaaSの成否は、ここにあるのではないかと感じています。
僕は5Gや自動運転技術が大きくMaaSに関わってくると考えていたんですが、(それ自体は間違いじゃないものの)それらを待たないとMaaSは進展しない…というものではないし、実際海外を中心にガンガン進展している…というのが本書を読んでよくわかりました。
規制によってその進展を遅らせることはできるけど(実際遅れてる)、果たしてそれが今後の「日本」にとって良いことなのかどうか?
1日数本しかバスが来ない今治の父の実家のあたりのことを考えると、とてもそうは思えません。
ここはやはりリスクをとって、世界を牽引するような仕組みを作っていくべきだし、それができるだけのインフラは十分に日本にはある。
…そう思いたいです。
甘いかしらん?