・トランスジェンダーと性別変更 これまでとこれから
編者:高井ゆと里
出版:岩波ブックレット
ゴールデンウィークの帰りの車の中で、なぜか家族でトランスジェンダーの話になっちゃったんですよね。
どういう経緯だったか全然覚えてないんですけど、
内容的にはトランスジェンダーがトイレに入ってくる問題とか、
JKローリングとハリーポッターの俳優たちとの軋轢とか、
まぁ雑談&お気持ち話みたいなものだったんですけど、個人的に自分があんまりここら辺にちゃんとした知識を持ってないなぁと反省したところがありました。
帰ってから取っておいた朝日新聞を読んでいたら、書評欄にこの本が取り上げられていたので、
「まぁこれもいいタイミングかな」
ということで読んでみることにした次第です。
内容としては現在通常国会で審議されているトランスジェンダー特例法の改正に関する周辺知識の解説本…みたいなものです。
もともとの特例法を成立させた経緯(第1章 特例法の制定過程から考える、その意義と限界:野宮亜紀)
論点となっている改正の論点となっている条文の解説(第2章 性別変更要件とはなにか:
立石結夏)
国際的な人権基準との兼ね合い(第3章 国際人権基準と性別記載変更法の現在:谷口洋幸)
トランスジェンダー医療の内容(第4章 特例法とトランスジェンダー医療:中塚幹也)
以上4つの点からまとめられていて、それぞれを専門家が解説しています
個人的にはなかなか興味深かったですね。
よく知らないことが多かったです。
特に特例法の制定の経緯なんかは、マイノリティーがどうやって自分たちの権利を確保していくかと言う流れの一例として読むとうなずけるところが多かったです。
政治は「仲間」を作っていくものですからね。
同じ意見を持っているもの同士で意見を先鋭させていっても、それが多数決の場で認められなければ、炎上商法としては成り立っても、政治としては成り立たない
特例法の内容に不十分な部分がある事は、関わった人たちはよくわかっていた。けれども、一方で「政治」もよくわかっていて、一歩踏み出すために妥協した。
そういうことがよくわかる解説でした。
だからこそ今回の改正の意義っていうのがそのマイノリティーではない僕にも伝わってくると言う点で良い本だと思います。
トランスジェンダーについては、「トランスジェンダーになりたい少女たち」の出版に対する強硬な反対運動なんかもありました。
まぁ改正タイミングですからね。
そこに至るノイズを排除したかった…と言う事はあるのかもしれません。
最も結果的には騒ぎになってしまって、「仲間」作りと言う点ではマイナスだったようにも思いますが。
医療行為の有無そのものについては、最高裁の判決もあるので、要件から外れる方向での議論がされることになるでしょう。
医師の第三者意見等が必要であると言うのは、本書を書いている人の中でも意見が割れるとこのように思います。
年齢要件なんかも、「トランスジェンダーになりたい少女たち」に関する記事なんかを読むと、ここら辺は確かに論点になるかも。
しかし、論点になるのを避けるためにそこに蓋をするのもどうかなというのが僕の意見ではあります。
車の中で家族でいろいろ意見が出てきた「トイレ問題」に関しては、直接的には今回の特例法改正に関係する話ではありません。
これはむしろ2023年5月の経産省のトランス女性に関する裁判で最高裁が出した判決につながる議論でしょう。
https://www.westlawjapan.com/column-law/2023/230720/
たまたま判決のニュースが出たときに、飲み会(おっさんばっかり)があってそこでも議論になったことが記憶に残っています。
もっとも判決の詳細を読むと、相当にいろいろなところに配慮のある内容になっていて、これをトランスジェンダー全般にまで広げるのはどうかなって言う部分もあるんですけどね。
そもそも実務レベルで考えれば、外見だけで判断するしかないので、トランスジェンダーの性別問題は関係ないとも言えるんですが。
痴漢の懸念っていうのがまぁあるんでしょうけど、犯罪行為とトランスジェンダーの人権を一緒くたに議論するっていうのもなんだかなぁです。
お気持ちとしてそういうのがあるのはわかりますけどね。
そこは最高裁の判決でも触れられているところですし、公共施設の事と個別問題を混同してもっていうのがあるんじゃないでしょうか。
<なお、本判決は、トイレを含め、不特定又は多数の人々の使用が想定されている公共施設の使用の在り方について触れるものではない。この問題は、機会を改めて議論されるべきである。>
本書では「国際人権基準」に関しても解説があって、改めて「人権」というものを考えさせられもしました。
個別論点の中には、
「そこまで突っ込まれても…」
と感じるところもある一方、(本件に関しては)多数派に属する僕が、マイノリティーの人権を考えた時に、果たしてその感覚が差別的な意識/既得権益的保身から出てきてるものではないのか…とかね。
一概に言えるもんじゃあないんだけど…。
通常国会って6月いっぱいくらいでしたっけ?
特例法改正はどうなるのかな?
本書で得た知識を持って、見ていきたいと思います。
(現時点で「どうあるべき」と自分の意見をしっかり表明できる段階にはないので、議論そのものも見ていきたいと思います)