・変異する資本主義
著者:中野剛志
出版:ダイヤモンド社
この手の本に「面白かった」って感想は相応しくないのかもしれませんが、「面白かった」んですよね、正直なところw。
まあ、僕は「経済」に関しては「不偏の理論」みたいなもんはないと思ってて、所詮は「その時点における対処療法」を導くのが「経済学」の役割だと考えています。
そういう意味じゃ、「現状をどう解釈し、どういう方向性が望ましいと考えるか」というのがポイント。
その点、本書の解釈は僕の現在の問題意識に近いところがあった、ってとこでしょうか。
<新型コロナウィルスのパンデミックと、中国のハイブリット軍国主義の台頭。
この二つがもたらす構造的な変化によって、世界は、社会主義化ー政府の経済社会への関与の強化と積極財政ーへと変異を遂げていくだろう。バイデン政権の「経済政策の静かなる革命」は、その変異の予兆にほかならない。これが、本書の主張である。>
前半は「長期停滞」を経て、コロナ禍で打撃を受けた各国の経済政策が「積極財政」に踏み込んでいく…という流れと背景を論じています。
「供給」サイドの対策を重視していた経済学が、「長期停滞」を分析することで、「需要」サイドへの手当てが必要であると考えるようになった…って流れ(ザク〜っとした僕のまとめだけどw)がナカナカ興味深い。
ここら辺、コロナ対策における日本の対応にも感じたことでもあるんですよね。
「需要サイドが新自由主義政策等によって傷んでしまった。そのことで供給サイドの対策が効果的でなくなり、<長期停滞>に陥っている。そこに手を入れなきゃ」
ってのは、大前研一さんの「欲望社会」にもつながったりしますかね。
「カーボンニュートラル」や「グリーンエコノミー」なんかは、こういう「需要サイド」を喚起する政策と考えることもできるかもしれません。
そりゃまあ、「環境対策」も重要ですけど。
でもそれにしちゃ、先進諸国の動きがあまりにも急で、激しいのは…。
(ちなみに「信用創造」を中心とした理論パートのところは、チョット僕には理解できないとこもありました。なんか、体感的にw)
後半の「覇権戦争」「中国のハイブリッド軍国主義」のあたりは、読み方によっちゃ、「陰謀論」臭いw。
でも丁寧に流れを見てると、「そうなんだよな」って納得感もあります。
それが喜ばしいことかどうか、ってのは、また別の話ではありますが。
作者がいう「社会主義化」ってのは、イデオロギー的な帰結によるものではなくて、現状の世界・経済情勢を見る限り、そういう方向性(政府の経済社会への関与と積極財政)に行かざるを得ないだろう…というものです。
そこで最も重要なのは何か。
その「大きな政府」を動かし、「経済に関与」できる<統治能力>です。
しかしながら、それこそがこのコロナ禍で見えた<日本の課題>でもあるのではないか?
<そんな我が国の政治や行政に、いまさら社会主義化に必要な高度な統治能力を求めても無駄である。そう言われれば、反論のしようもない。
だが、もし、そうだとしたら、どうすべきなのであろうか。
答えは、単純である。
我が国は、その統治能力を高めるしかない。
さもなくば、これまで通り、自滅の一途をたどるのみ。それだけのことである。>
なんとも…。
「面白かった」とか言っちゃいかんかな。これはやっぱり。
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