・邦人奪還 自衛隊特殊部隊が動くとき
著者:伊藤祐靖
出版:新潮社
元・自衛隊特殊部隊員の著者が描く近未来シミュレーション。
「尖閣島」を巡る「中国」との暗闘を序章として、北朝鮮でのクーデター騒動の最中、危機にさらされた拉致被害者の「奪還作戦」を遂行する陸海の自衛隊特殊部隊の活躍を描きます。
まあ、特殊部隊を立ち上げたご本人が描く話ですからね。
リアリティはたっぷり。
序章となる「尖閣島」での戦いは、やや「出来すぎ」な感じもありますが、「北朝鮮」での軍事作戦は、
作戦遂行中の非常事態、隊員の被害、官僚組織や政治との軋轢etc、etc
と怒涛の展開となります。
オチがこうなるのは、日本の置かれている状況、政治・官僚組織の現状からこうならざるを得ないのかと、やや暗澹たる気分にもなりつつ…。
政治家や、軍の官僚組織の振る舞いと、現場で任務を遂行する隊員たちの矜恃とのギャップには、何やら新型コロナ対策での政府・官庁と、専門家会議や医療機関・自治体とのギャップを見るようで、これまたなんとも言えない気分になります。
作者のデビュー作(ノンフィクション)は「国のために死ねるか」と、思いっきり右翼的な題名ですがw、内容は感情的な愛国心の煽りなんかじゃない…とは聞いています。
本書でもそういう「考え」の一端は窺えるセリフが、ちらほら…。(本書を読んで、「国のために死ねるか」も読んでみたくなりました)
<「結論から申し上げれば、『我が国の国家理念を貫くため』です。これ以外のはずがないのです。なぜなら軍事作戦は、国家がその発動を決意し、国家がその発動を命じて初めて行われるものだからです。だからその目的とするところは、国家が存在する理由、すなわち国家理念を貫くため以外であってはならないのです。(後略)>
<「本当に我々が確認させていただきたいのは、そこに強い意志が存在するかどうかなんです。共通の国家理念を追い求めている同志、同胞たる自国民が連れ去られたのだから、何がなんでも取り戻す。ソロバン勘定とは別次元、いかなる犠牲を払ってでも救い出す。その強い意志を総理ご自身がお持ちで、だから我々に“行ってこい“と命じていらっしゃるかどうかです」>
<「でもよ、普通に暮らしていた人がかっさらわれて、その居場所がわかっていながら、救出すると被害が多そうなので止めておきますってあるか?世の中には、コスパじゃ割り切れねえ物があるんだ。救出できる人数とその際に失う人数の割が合わないので見て見ぬふりをします、それはねえ。一歩も一ミリも譲れないものってあるよな。その時のために俺たちはいるんだ」>
アメリカ・中国・朝鮮半島との関係は、on the way で動き続けています。
その中で不測の事態が発生しないとも言えない国際環境。
その時、言葉だけの「イデオロギー」じゃなくて、「現実」を前にした「選択」と「行動」を導き出すのは「何」なのか?
作者が突きつけてるのは、そういうことなんじゃないかなぁ…。
一気に読むだけのドライブ感とリアリティのある作品です。
「軍事オタク向け」と片付けるのは、ちょっと惜しいかな。