鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

これはナカナカ整理しづらい本…:読書録「国のために死ねるか」

・国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動

著者:伊藤祐靖

出版:文春新書(Kindle版)

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「邦人奪還」を読んで、先立つ著作を読んでみたくなりまして…。

まあ本書の評判は以前から聞いてはいたんですけどね。

 


「題名がムチャ<右>っぽいけど、中身は全然違う」

 


「邦人奪還」もそうですが、<右翼>でも<軍事マニア>でもなく、リアリズムに支えられた、それでいて思想性もありつつ、自分自身の「迷い」にも誠実な…なかなか読んで「こうだ」と片付けにくい作品ではあります。

僕自身、決して堂々としたツラで作者の前に立つモノは持ち合わせて無いな、とは思いました。

 


前半はご自身の経歴と重ねながら、自衛隊の「特殊部隊」を創設し、育てるに至った経緯と、その背景にある自分の考えが主な内容。

後半では自衛隊を辞した後、主にミンダナオ島での経験から、戦闘の真髄、さらにはその向こうにある「日本のあり方」に関する考えや迷いが語られます。

 


ベースにあるのは「特殊部隊」という究極の<現場主義>のリアリズムなんですが、興味深いのは、そういう考え方を作者が身につける上で影響したと思われる人物。

特に陸軍中野学校出身の父親と、ミンダナオ島で「助手」(実質的には「師匠」)ラレイン(仮称・20歳そこそこの女性)の二人。

印象的すぎて、この二人の話をじっくり描いてほしい…と思ったくらいです。

 


思想形成の方に影響した父親に比べて、ラレインの方はある種の「パラダイムの変換」をもたらす存在。

「戦闘術」「死生観」のシンプルながらも究極のリアリズムから、「国家の基本骨格(日本においては日本国憲法)」への痛烈な批判等、突きつけてくるものがあります。

 


<「祖先の残してくれた掟を捨てて、他人が作った掟を大切にするような人を、あなたは、なぜ助けたいの?  

そんな人たちが住んでいる国の何がいいの?  

ここで生きればいいじゃない。この土地に本気で生きている人たちと一緒に生きればいいじゃない。みんな、あなたのことが大好きよ」

「……」

「みんなと一緒に、ここで生きなさいよ。どうしても、祖先が残してくれた掟を捨て、他人が作った掟を大切にするような人を守りたいというのならそう言いなさい。私は、そういう人と同じ時間を生きないの。どちらかが死ななければならないわ」>

 


その切っ先に、作者は逡巡する。

 


<自分が目を背けている日本の現実とはなんだろう。日本は、戦争に負けて、国としてのあり方を変えたのか、変えていないのか?  

実は、変えたくせに変えていないふりをしているのではないのか。それも自主的に変えたのではなく、強制的に変えさせられたのに、そこをうやむやにしようとしているのではないのか。  

民族として、国家として一番してはいけないことをしている気がしていた。>

 


だが戦後日本のあり方を振り返る時、それだけでない姿も見えるようにも思い、さらなる作者の逡巡は続きます。

そこに明確な「答え」は用意されていません。

 


「国のために死ぬ」人間である<特殊部隊員>。

しかしそのためには「死ねる」だけの「何か」が「国家」が示さなければならない。

 


<せっかく、一度しかない人生を捨ててまで守るのなら、守る対象にその価値があってほしいし、自分の納得のいく理念を追求する国家であってほしい。  

それは、満腹でもなお貪欲に食らい続けるような国家ではなく、肌の色や宗教と言わず、人と言わず、命あるものと言わず、森羅万象すべてのものとの共存を目指し、自然の摂理を重んじる国家であってほしい。>

 


「テロリズム」への<理解>等、やや危ういモノもはらみつつ、作者は考え続け、それを我々にぶつけてきています。

僕自身は「共感」できるものもあれば、「それはどうかな?」と思うところもあり…。

ただ確からしいものとして、それを作者にぶつけることは僕にもできません。

(僕自身は「戦前回帰」と「日本古来」を混同する考えには賛同できません。

一方で、上記にまとめるられたような「国家観」には共感できます)

 


まあでも、真摯で真面目な人だと思いますよ、この作者。

 


<そう考えると、テロリストも、イコール社会秩序を破壊する者だと決めつけるのは早計かもしれない。実は、満腹のくせに、更なる富や快楽を手に入れようとする勢力に追い詰められた者の断末魔の抵抗ともいえないか。その抵抗を排除しようというのが、「テロとの戦い」なのではないか、と思えてくる。  

満ち足りてなお、資源、市場の獲得のために活動する軍隊こそ、自然界のルールを無視した人類の敵、いや自然界の敵ではないのか。そういう国と歩みを同じくするのが日本の目指す姿なのだろうか?「はいはい」と言うことを聞いているうちに、一番したくないことをするはめになるのではないのか、と思ってしまう。>

 


なかなかここまでは言えないでしょう。

 


並行して、「愛の不時着」を楽しんでいる最中。

ちょいと複雑な気分にもなりますw。

一読して、ストンと腹に落ちるような本じゃないし、そうあるべき。

…と僕は思うんですが、いかがでしょう?