・中国が世界を撹乱する AI・コロナ・デジタル人民元
著者:野口悠紀雄
出版:東洋経済新報社(Kindle版)
5/6まで全文無料配信…ということで読んでみました。
概要はこの記事に書かれています。
<コロナとの戦いで見えた中国の本質的な問題>
https://toyokeizai.net/articles/-/346510
<『中国が世界を攪乱する――AI・コロナ・デジタル人民元』のもともとの目的は、 AI、 ビッグデータ、顔認証、信用スコアリング、プロファイリングなどといったことについて、自由と権力との関係を考察したいということでした。
本書を準備する途中でコロナウイルスの問題が生じたわけですが、これはまさしく本書が追求していた問題そのものであったのです。
本書は当初は、2018年ごろから始まった米中経済戦争をテーマとしていました。これがトランプ大統領の単なる気まぐれによるものではなく、未来世界における覇権をめぐる、アメリカと中国の基本的思想の衝突であるという理解から、さまざまな分析を行っていました。
特に強調したかったのは、超長期的視点からの歴史の理解です。>(記事抜粋)
野口さんらしい、各種の統計データを追いながらの考察はナカナカ興味深いです。(noteのアンケートは母数が少なすぎるようにも思いますがw)
まあ、「ビックリ」するような知見が提示されるわけではありませんが、その分、手堅い感じの考察がされていて、「現状」の立ち位置・パースペクティブを確認するには手頃(無料だけどw)なんじゃないですかね。
特筆すべきは野口さんの「正直」なところ。
米中貿易戦争についても、最初は「そんなことしたって、アメリカに今更製造業が戻ってくるもんでもなし。トランプの人気取り制作にも困ったもの」と思ってたのが、「いや、これはもっと大きな視野に立った覇権戦争が始まったのであって、それはトランプの独走ではなく、アメリカのエスタブリッシュメントの共通理解なんだ」と気づいて、意見を変えたことなんかも正直に吐露されています。
そして<coved-19>。
<つい数か月前まで、われわれは、中国という強権管理国家が未来の世界で覇権を取ることはない、と考えていました。なぜなら、覇権国家の必要条件は「寛容」(他民族を認めること)であり、中国はその条件を欠いているからです。
しかし、この信念が、いま大きく揺らいでいることを認めざるをえません。
アルベール・カミュは、その著書『ペスト』において、「ペスト菌は死ぬことも消えることもない」と言っています。
カミュがペスト菌という言葉で表現しようとしたのは、ナチスに代表される管理国家です。「それは、ナチスが消えても、なおかつ世界から消えることはない」というのが、カミュの警告なのです。
カミュのこの予言が現代の世界における最も基本的な問いであることを、われわれはいま、思い知らされています。>(記事抜粋)
カミュを持ち出すことで管理社会への警告を掲げつつも、
「新型コロナウイルス対策」における(現時点での)中国の感染押さえ込みの成果、それに反しての自由鵜主義諸国の無惨な状況、検討される行動追跡システムの導入etc,etc…。
単純に「自由と寛容こそが重要」とは言い切れない判断を我々は日々迫られているわけです。
僕自身はハラリさんの意見に近いかな。
「ICTによる行動追跡システムの導入は悪いことではない。そのデータをどういう風に使い、その扱いをどうするか、が重要なのだ」
しかし「安心と自由」を考えたとき、そこに「揺らぎ」があることも認めざるを得ません。
<自由を守りつつ、しかも疫病を制御する。それが日本で実証されることを願って止まない。 そして、われわれの社会は、疫病をコントロールする技術も持っているし、その技術を他の目的のために濫用しないよう、権力にチェックをかけられる社会でもある。このことも一日も早く実証されるよう、心から願う。>
本書のラストの一節には、深く同意します。
祈りとともに。