鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「朗読者」

・朗読者
著者:ベルンハルト・シュリンク 訳:松永美穂
出版:新潮文庫



映画化もされた有名作品・・・ですが、初めて読みました(映画も未見)。内容的には好きなタイプのストーリーで、気にもなってたんですが、何となく読みそびれて・・・。



構成としては「謎」がキーになる部分もあるので、「ネタバレ禁止」の部類に入る作品でしょうが、ここまで有名になると別に問題はないでしょうかね。



<15歳の時、21歳年上の女性と恋愛関係になった主人公。
不意の別れから8年後に再会した時、彼女はナチ絡みの先般としてさばかれる立場であった>



主人公とヒロインの関係では、15歳のころも、ヒロインが囚人となってからも、「朗読」が重要なポイントとなっています。これは彼女が「文盲」故であり、そのことが戦争犯罪や、裁判の量刑を考える上でも絡んできます。



ストーリーの概略を聞くと、「切ないラブストーリー」って感じ。映画の邦題が「愛を読む人」ってのも、その路線を思わせます。
でも読んでみると、かなりシビアでハードな話ですね、これは。
・罪(戦争犯罪)を犯した人物を愛すること
・貧困あるいは虐待(文盲の原因はおそらく、これ)と犯罪
・世代を超えた断罪のあり方
・国家の犯罪に対して、個人はどう対処すべきか
・「赦し」とは?
etc,etc...
後半はこうしたテーマが錯綜する中、二人の間で「朗読」が交わされます。



これって日本だともっと「情」に流されると思うんですよね。そうなるとこの話は「切ないラブストーリー」で片付けられる可能性はあります。
でも本書で著者も主人公も、ヒロイン自身も、安易な「赦し」を与えず、求めません。
「文盲」という情状酌量の余地はありながら、「罪」と向き合った時(個人として)そこにエクスキューズを求めないのです。
「朗読」という行為は主人公とヒロインのつながりであり、そこに「赦し」の気配はあるでしょう。
しかしそこに赦しの「言葉」はなく、そのことが切ないラストに繋がります。
いやはや厳しい。
「せめて手紙くらい・・・」
って思うんですけど、そこが本書の「問い」でもあるんでしょう。



こういうのを読むと、日本における戦争責任の問題って、やっぱり正面から捉えられてないなぁ・・・って感じますね。特に後の世代の捉え方が・・・。(これはもう、私自身の問題ですが)
本書についてはコレでも「甘い」という議論が欧米ではあったようですが、その視点に比べると「永遠の0」でさえ、ねぇ。



勿論「戦争責任問題」ってのは色々な視点があると思います。「ドイツが徹底的に戦争責任を追求してきた」って見方もどうかって意見もあるようです。
それでもこういう作品が書かれ、そこで「赦し」についてこのような厳しいスタンスが撮られていること。
これは頭の中に入れておくべきことでしょう。
戦後レジームからの脱却。
そんな簡単なことじゃありません。



(ちなみに21歳年上の女性との恋愛について、作中で他のある女性はその行為をもって「粗暴な女」とヒロインを評します。
これまたシビアな見方)