鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

レクターを超えるのは難しい:読書録「麻倉玲一は信頼できない語り手」

・麻倉玲一は信頼できない語り手

著者:太田忠司

出版:徳間文庫

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念のため最初に言っておくと、この本、すごく面白かったんですけどねw。

「死刑制度が廃止された」未来(?)の日本で、「最後に生き残った死刑囚」が語る事件の物語。

自分勝手な「理屈」で犯される犯罪の裏話が、「現在」に及ぼす波紋。

 


なかなか雰囲気があるし、「次」を読ませる(連作短編の体裁になってますんで)ドライブ感もあります。

太田さんは元々手練れの作家さんですから。

安心して読むことができます。

 


「驚愕のラスト」

 


正直言って、そこまで「驚愕」ではないけどw、

「こういう裏返し方か」

と感心はしました。

と、同時に、

「<ハンニバル・レクター>を生み出しすのは難しいなぁ」

とも。

比べてどうするって話でもあるんですが。(彼がどういう人物であるかは、題名であらかじめ明らかにされてますしね)

 


「休日の時間潰し」としては良い作品だと思います。

「帯」はちょっと煽りすぎではありますがw。

 

 

 

#読書感想文

#麻倉玲一は信頼できない語り手

#太田忠司

「伯父さん」はどこへ行ったんだろう?:読書録「我は、おばさん」

・我は、おばさん

著者:岡田育

出版:集英社

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「少女」「若い娘(コ)」と「老婆」の間にある「おばさん」。

その「期間的」な呼称でありながら、蔑称としても機能している「おばさん」を読み直して、「女性」の生き方に新しい見方を見出そうとする作品…かな?

ジャック・タチの「ぼくの伯父さん」や、北杜夫の私小説、植草甚一的存在や、両津勘吉、バカボンのパパなんかを引き合いに出してるように、「親子関係」や「上下関係」とは違う「斜め」の関係から主人公達を啓発(挑発?)する「伯父さん」的存在としての「おばさん」を、実在の人物、フィクション(小説・映画・ドラマ等)の登場人物等から見つけ出して、論じている作品…といってもいいかもしれません。

 


<「おばさん」とは、みずからの加齢を引き受けた存在。年若い者に手を差し伸べ、有形無形の贈り物を授ける年長者。後に続くすべての小さな妹たちをエイジズムから守る、世代を超えたシスターフッドの中間的な存在。歳を重ねるのも悪くないと教え、家族の外にあって家族を解体し、時として血よりも濃い新たな関係性を示す者。過去を継承する語り部もいれば、価値観を転覆させて革命を起こす反逆児もいる。縦につながる親子の関係とも、横につながる友人の関係とも違う、「斜めの関係」を結ぶ位置に、おばさんは立っている。>

 


紹介されてるフィクションの数々には「お、ちょっと面白そう」ってのも結構あります。(「違国日記」は気になってました。映画の「若草物語」も、こういう視点だと面白いかも)

時間は限られますがw、参考にはさせてもらおうか、と。

とりあえず堀井美香とジェーン・スーのポッドキャスト(「over the sun」)は登録しました。

 


一方で、「伯父さん」たちはどうなったんかなぁ、と。

「縦の関係」にドップリの「昭和」なおじさん達は、このコロナ禍でそのズレっぷりに非難ゴーゴーですが、「斜めの関係」の伯父さんってのを、最近、とんと見ないなと。

(なぜか本書ではクローズアップされてませんが)「伯父さん」のトップを張ってた「車寅次郎」さんがいなくなっちゃったからですかね?

あるいは、あの「伯父さん」たちも、ある意味「昭和」の時代の申し子だったのか。(タチの「伯父さん」は昭和とは関係ないかw)

 


チャーリー・ワッツの訃報に接して、改めてストーンズを聴きながら、

「まあ、これも<伯父さん>だけど、今の時代にあり得るかっていうと、ちょっと難しいかなぁ」。

Appleのオリジナルドキュメンタリー「1971」なんかみたら、そりゃまあ、無茶苦茶ですからね、ストーンズ。

 


「伯父さん」

 


面白いし、楽しいし、刺激は受けるんだけど、決して「褒められた」存在じゃない。

寅さんは一攫千金を狙って沖縄でハブに噛まれて死んでるし(ドラマ版ね)。

カッコいいけど、アントニオ猪木や千葉真一、エリック・クラプトンの生き方を「これぞ人の道」とは到底思えないw。

キースなんか、「今、無事に生きてるのが不思議」くらいですから。

ふと気がつくと、「伯父さん」はすごく生きづらい時代になってるんじゃないか…。

 


ん?

いや、それは僕が歳をとっただけ?

もしかしたら、息子達には息子達の「伯父さん」がいるの?

 


「50超えて、何が<伯父さん>だよ。お前が<伯父さん>になれるかだよ」

 


なるほど。

これは「僕がどういう生き方をしていくのか」って話になってるのかもしれない。

そう思うと、これはこれで頭の痛い話になりそうな気もしますが…。

 


う〜ん、僕は「伯父さん」になれるかな?

いや、なりたいんかな?

 

 

 

#読書録

#我はおばさん

#岡田育

コロナ禍への日本の統治体制のことを考えさせられました:読書録「決定版 大東亜戦争」

・決定版 大東亜戦争<上・下>

著者:戸部良一、赤木莞爾、庄司潤一郎、川島真、波多野澄雄、兼原信克

出版:新潮社新書

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毎年8月は戦争関連の本を読むことにしています。

今年チョイスしたのがこの新書。

15日よりも前に読み始めたんですが、思ってたよりも時間がかかりましたw。

 


内容的に、「物語的な流れ」みたいなものがあるんじゃなくて、4つの大きな括りを踏まえて、14のテーマを、資料解説っぽく取り上げる形式になってて、「一気読み」ってのがしづらかったんですよ。

テーマによっては、

「ここは突っ込まれても…」

ってのもなきにしもあらず…でしたし。

 


目次はこんな感じ

 


Ⅰ 開戦と戦略

第1章 日本の戦争指導計画と作戦展開

第2章 英米ソ「大同盟」における対日戦略

第3章 中国から見た開戦とその展開

 


Ⅱ 共栄圏の政治と経済

第4章 大東亜会議と「アジアの解放」

第5章 大東亜戦争期の日中和平工作

第6章 財政・金融規律の崩壊と国民生活

 


Ⅲ 戦争指導と終戦過程

第7章 日本の戦争指導体制

第8章 アメリカの戦争指導体制と政軍関係

第9章 戦争終結の道程

第10章 中国から見た「戦勝」

第11章 サンフランシスコ講和体制の形成と賠償問題

第12章 平成における天皇皇后両陛下と「慰霊の旅」

第13章 戦争呼称に関する問題

第14章 帝国日本の政軍関係とその教訓

 

 

 

大戦期の日本の財政の出鱈目ぶり(第6章)とか、上皇・上皇后陛下の「慰霊の旅」にみる「天皇家の先の大戦の捉え方」(第12章)とか、興味深いところはたくさんあるんですが、今の「コロナ禍」で読むと、日本のコロナ対策における政権・官僚の統治の不全っぷりが否応なく想起されます。

第7章、第8章、第14章あたりですかね、集中的には。

ポイントとしては「国家としての戦略を立案し、それに基づいて外交を展開し、その結果としての戦争において戦略的目的を堅持しつつ、戦争を遂行する」という国家としての<中核的組織>があったかどうか?

まあ、雑に言えば、国家の全権を担い、<外交>と<戦争>を司る存在としての「チャーチル」や「ローズベルト」は日本にいましたか?

って話かな。

「個人」としてではなく、「組織的役割」としてね。(その統合を「軍」ではなく「政治」(政治家)が担うところがポイントだし、シビリアンコントロールの意味を考えさせられもします)

 


元・外交官である兼原さんは、本書ではやや浮くくらいの感情的な言葉で、鈴木貫太郎の考えを記します。(第14章)

 


<鈴木は、戦後、暗殺を避けるために転々としながら受けたインタビュー記事「終戦の表情」の中で、自分はどうせ一度死んだのだから、命を擲って戦争を終わらせると決意したと言っている。鈴木はまた、国が亡べば終わりだ、何としても日本は生き延びなければと思ったとも言っている。この民族生存への執念こそが、最高指導者の最も重要な資質である。鈴木は、「瓦となって残るよりは珠と散りたい」と息巻く人たちを、心底、軽蔑していた。>

 


「民族生存への執念」

 


これを最高指導者が持つこと、その執念の実現のために国家機能を使い切ること。

だからこそ「民主主義国家」でありながら、有事における「独裁的体制」が英米では機能しうる…ということなんだろうと思います。

今の「コロナ禍」においても、(特にイギリスは)こういう気配を見せてるんじゃないか、と個人的には思ってるんですけどね。

(日露戦争を戦った、いわば「明治の生き残り」である鈴木貫太郎はそれを体現し得たし、「天皇家」にはそのことが身にしみてわかってたんじゃないか…とも。

だからこその「慰霊の旅」なんじゃないかなぁ…)

 


今回のコロナ対策で僕は、

「今の自民党政権って、ここまで民主的やったんや」

とヤヤ驚いています。

政権や官僚たちの右往左往は、その現れだろうとも。

だって人々が求めている「整然とした、成果のあるコロナ対策」をやろうと思ったら、その実行はかなり有事体制における専制的な政策になる可能性が低くないですよ。

私権の制限に踏み込むわけですから。

 


そういう意味では、色々文句はありますが(オリパラとか、GoToのタイミングとか、休業補償とか)、結構、菅政権は頑張ってはいると個人的には思ってるんですけどね。(「ワクチンがキーだ」と見定めてのアクションとか)

ただこうなって、「もう一歩」が必要というのも確かかも。

でもそれがどういうものなのか。

国民的合意はあり得るんですかね?

 


まあ、そういう意味では「今」を考える上でもナカナカ興味深い作品でした。

「イデオロギーから解放して<大東亜戦争>という言葉を」

って点については、

「いやぁ、そりゃ無理でしょ」

と思ってますけどw。

 

 

 

#読書感想文

#決定版大東亜戦争

 

噛み合ってる?:「庵野秀明+松本人志 対談」

Amazonプライムビデオ・オリジナルでの対談。

「シン・エヴァ」配信に合わせて、Amazonでのオリジナルシリーズを持っている松本人志を噛ませてみた…ってとこですかね。(松本さんが庵野作品にシンパシーを持ってるってのもあるようです)

でも噛み合ってますかね、この対談w。

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40分前後編でしが、前半は「探り合い」(松本人志が庵野秀明へのアプローチ方法を探ってる感じ)で、庵野さん自身が言ってるように、

「すぐに滞る」

気配もw。

ただ「ウルトラマン」「仮面ライダー」話で庵野さんの「オタク気質」にスイッチを入れた後は、ちょっと面白くなったかな?

NHKの「プロフェッショナルの流儀」をネタにして「監督論」に触れたあたりは興味深くもありました。

松本人志さん自身が「監督」としては決して成功してるとは言えませんからね。

 


監督としての「庵野秀明」は、いいパートナーとスタッフと出会うことができたってことじゃないかな…と個人的には思っています。

そのことで自分の苦手とするパートを他人に委ね、作品全体のクオリティに注力することができるようになった。

新劇場版以降、そういうスタイルが確立されたのが大きいんじゃないかなぁ。

(逆に言えば「松本人志」は映画においてそういうパートナー・スタッフを見つけられていないってのがあるということかも)

 


正直、

「見るべき」

って対談じゃないかなw。

「プロフェッショナルの流儀」が面白かった人なら、「続き」としてみてもいいかも。

滞りますがw。

 


#庵野秀明

#松本人志

#対談

部下にはなりたくないw:ドキュメンタリー「さよなら全てのエヴァンゲリオン〜庵野秀明の1214日〜」

NHK「プロフェッショナルの流儀」で放映されたものの、ロングバージョン。

最初のバージョンはTV放映時に観ました。

prime videoに「シン・エヴァ」と同様、本作がアップされてましたので、新劇場版を見終わった後に視聴。

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まあ、最初に見た時も思ったんですが、

「この人の部下にはなりたくない」

でも<リーダー>としては「正しい姿」なんでしょうね。「成果を出す」という意味においては。

なんだか現在の<コロナ対策>における政府や行政のリーダーの姿が浮かんできたりもしました。

 


「アングルを探る」シーンは「第3村」のパートでしたね。

どん底に落ちた<シンジ>が浮かび上がる重要なパートなんだけど、ドラマチックな事件は起きないので、すごく地味なシーンの連続。

そこを「アングル」で見せて、見るものの興味を繋いでいく…ってのがここのポイントなんですかね。

映画(シン・エヴァ)を見て、改めて気付かされました。

…まあ、それでもあのパートは作品の中じゃ「地味」だったけどw。

 


ドキュメンタリーとしては、鈴木敏文さんの挑発に乗っかって「庵野秀明の過去」に踏み込み、そこに「父親」の影を見出すってのは、まあ「物語」としてはできてるけど、「どうなんやろ?」とは思ったりもしましたけどね。

むしろ庵野秀明の指摘もあってか、本作のショットやアングルが「っぽい」感じになっちゃうあたりが個人的には面白かったりしたかなw。

 


製作の裏側を見る…って言う意味では、なかなか興味深いドキュメンタリー。

でも「意味」は、映画本編の中にこそある…と思いますよ。

 


そうあるべきですしねw。

 

 

 

#NHK

#さよなら全てのエヴァンゲリオン

#エヴァンゲリオン

#エヴァンゲリヲン

#庵野秀明

マジやったら5、6人、死んでますがな:映画評「東京リベンジャーズ」

息子と娘の希望で観に行きました。

帰省も出来ない「夏休み」ですからね。

まあ、観たい映画くらい…。

僕は個人としては、ヤンキー喧嘩もんは「クローズ」でもういいかなって感じなんですけど…。(「今日俺」はコメディだからねw)

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…って、おもろいやん。コレ!

 


「クローズ」シリーズもそうでしたが、この手の映画は「その時代」の若手俳優(内容的に男優メインですが)の「顔見世興行」みたいな感じがあるんですよね。

本作も、マジそんな感じ。

大河ドラマの主演を演ってる「吉沢亮」は流石に一歩抜け出てると思いますが(にしては、楽しそうに暴れ回ってますw)、

 


北村匠海

山田裕貴(ドラケン、最高!)

杉野遥亮

鈴木伸之

眞栄田郷敦

磯村勇斗

間宮祥太朗

 


いやぁ、このメンツで盛り上がることw。

まあ、「え?高校生?」ってのはあるけど、賀来賢人(今日俺)やGACKT(翔んで埼玉)よりはマシっしょw。

乱闘シーンは、リアルやったら、5.6人は逝っちゃってる雰囲気ですが、この手の映画だと「そこは言わない約束」ですわな。

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ストーリー的には一応収まるところには収まってますが、アニメファンの娘によれば、「まだ先がある」とのこと。

確かに「?」なところもあるけど、こっから?

 


でも続編があるなら、観たいかなぁ。

50代のオッサン一人で観に行くの辛いから、子どもたちをダシに使わせてもらいたいけどw。

 

 

 

#映画評

#東京リベンジャーズ

泣けた…:映画評「竜とそばかすの姫」

予告編を観て、

「これは<サマーウォーズ>路線やな!」

と心躍らせた細田守最新作。

 


期待違わず…いや、期待以上、でした。

なんかね〜。

泣けたんすっよ。(一緒に行った子供達がちょっと呆れてたw)

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<コロナ禍によってネットと僕らの生活がリンクする率も格段に上がりましたが、ネットの世界が現実の僕らの世界と等価になってきた中で、今までにない感情やこれまでと違う物語も生まれてくる。この物語のように、もう一個の世界にアクセスすることでもう一個の自分の可能性が開くということもあるわけですよね。子どもにとってネットは、それによって自由を得られるものであってほしい。そういう成長を前向きに描くのがアニメーションの果たす役割だと僕は思うんです。>(細田守インタビュー。パンフレットより)

 


ネットやSNSのかなり醜い部分も本作では描かれていますが、根底あるのは上記のような楽観主義あるいは願い…です。

それを「甘い」と言うのは簡単なことですが(この「事件」後のヒロインを考えると、平穏なものではないだろうな…と思います)、「それでも…」と言うのは、僕も共有した願いではあります。

今の混沌は、いずれ新しい地平に繋がり、そこでは新しい人間のあり方や価値観が生まれてくるんじゃないか、と。

まあ、現実は「U」どころか、「OZ」(サマーウォーズ)にさえも追いついていませんがね。

 


それが「竜」が直面する「現実」をどこまで変えることができるのか?

 


不満があるとすれば、もう一歩、二歩、そこに踏み込んで欲しかったかな。

それをやると、リアリティラインが崩れちゃうという考えがあったのかもしれませんが。

 


しかしまあ「中村佳穂」の歌唱力は圧倒的。

知ってたけど、改めて思い知らされました。

本作は「中村佳穂」を世に知らしめる一作でもあったかと思います。

最初に「泣けた」のは、彼女の「歌」だったんだよな〜。

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#映画評

#竜とそばかすの姫

#細田守

#中村佳穂