鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

いやぁ、沁みました…:映画評「PERFECT DAYS」

妻を誘って観に行きました。
小さめの会場でしたが、結構お客さんは入ってました。
年齢層もバラバラでしたね。

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僕は気が付かなかったんですが、妻によると前半で途中退席したお客さんが1人いたそうです。
まあ、分からなくもない。
前半は、ただただ主人公(役所広司演じる「平山さん」)のルーティーンのような毎日を繰り返すだけ。
ここに僕なんかは入り込んじゃったんですが、これを「退屈」と思っちゃう人がいてもおかしくはない。
ある意味、この前半は試金石になるのかも。
(いや、退席した人は体調不良だったのかも知んないですけどw)

 

中盤、姪っ子が登場してから、平山さんの日常は揺れ始めます。
ただそれも大きな破綻ではない。
揺れながらも、平山さんが激しく揺さぶられる印象はありません。
むしろその後の、後輩が突然仕事をバックれた時の動揺の方が大きい。
ここには平山さんの限界が垣間見えもします。

 

平山さんの「平穏」は、ある意味、平山さんが背負うべきものを背負わず、自分で決めた枠の中で生きているからこそ成立しているもの。
後輩の退社は平山さんのルーティーンを崩し、その「枠」を揺るがせてしまう。
だからこそ彼は怒り/動揺してしまったのだと思います。
後輩の後任として、「できる風」の女性がやってきた時の平山さんの安堵の表情は、再びその「平穏」に戻ることができることへの安堵でもあるのではないか、と。

 

ここら辺、パンフレット(よくできてます)で川上未映子さんが指摘してることにもつながると思います。(いやぁ、川上未映子。こえぇ)

 

<たとえば汚物の扱いにしても、現実はどうなのかを考えた時に、きれいごとにみえる可能性もある。でも、汚物が出てこないことが、この映画ではとてもよく効いてますよね。>

<平山さんは女子トイレも清掃します。生理用品とかをどうするんだろうなって見ながら思ってたんですよ。吐瀉物もです。でもクリーンなままです。この演出は、この日本で向き合わなきゃいけない責任とも向き合わずに、見たくないものを見ないまま自分のルーティーンの中で生きている、まるで少年のような彼の在り方を示しています。>

 

だからこそ、この映画は静かな美しさを醸し出すことができる。
でも実際のトイレ清掃っていうのはそんなもんではないし、人々の毎日もそうではいられない。
そこに「目を瞑ったこと」で、この作品の「平穏」は成立しており、それはまた「平山さん」の生き方にも通じる…とまで言ったら考えすぎかな?

 

でもまあ、それが「悪いこと」とも思えないんですけどね。
パッケージとしての作品をどういうトーンにするのか…という点で、「汚いものを見せない」という判断は、この作品についてはアリでしょう。
僕自身は「清貧思想」にはネガティブなスタンスですが、個人の考えやライフスタイルに収まる限りにおいては「清貧思想」も「ミニマリスト」も特に問題ない、なんなら自分の嗜好もそっちの方を向いてるくらいw。
問題はそれを他人に押し付けること…なんですよ。
特に自分たちの後の世代に押し付けるに至っては…(自粛)。
平山さんにはそんなところないですからね。
そこに限界があること自体が平山さんの「人間らしさ」であり、だからこそ信じれるって感じもあります。


しかしまあ、観てる間も色々考えさせられる作品でした。
作中じゃほとんど説明もされないですし。
個人的には「石川さゆり/三浦友和」のクダリは、この作品にしては説明しすぎ…って感じもしました。
けど、川縁のシーンはいいシーンでもあるんですよね〜。

 

そしてラストの役所広司/平山さん。
やられたな〜。
沁みたな〜。
これで全部持ってくよな〜。
(「戦メリ」のたけしもそうでしたが、映画としては本作の方が数段上)

 

 

あと選曲にもやられまくりました。

 

The House of The Rising Sun:The Animals、石川さゆり
Pale Blue Eyes:The Velvet Underground
(Sittin’ On)The Dock of The Bay:Otis Redding
Redondo Beach:Patti Smith
(Walkin’ Thru The)Sleepy City:The Rolling Stones
青い魚:金延幸子
Perfect Day:Lou Reed、Patrick Watson
Sunny Afternoon:The Kinks
Brown Eyed Girl:Van Morrison
Feeling Good:Nina Simone

 

このプレイリストはしばらくヘビロテ。

(平山さんはカセットでアルバムを聴いているので、「プレイリスト」なんて、「はあ?」でしょうがw)

 


経済評論家・山崎元さんが1月1日に亡くなられたことを知りました。
癌の再発以降、山崎さんはいろいろなことを書き残されてたんですが、その最後の投稿にこんなことが書かれています。

 

<いくら努力しても過去の蓄積を「本人」は将来に持ち込むことが出来ない。
 過去は「他人」のもの、最期の一日は「本人」のものだ。お互いに機嫌良く過ごす上で邪魔になるものは何もない。
 上機嫌なら全て良し、と思うがいかがだろうか。>

 

その文章を読んで以来、ずっと引っかかってたんですけど、「平山さん」の平穏な毎日を観て、なんだかストンと腑に落ちるところがありました。

 

上機嫌なら全て良し

 

朝起きて、空を見た時に笑顔が出るのであれば、それはそれで良いのかもしれないね。

 

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