鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

固定観念は意識的に崩していかないとね:読書録「これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話」

・これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話 イノベーションとジェンダー
著者:カトリーン・キラス=マルサル 訳:山本真麻
出版:河出書房新社(Kindle版)

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「アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?」を書いたフェミニスト経済学者カトリーン・マルサルさんの作品。
前作は<経済>の切り口から「女性」が排除されてきた経済学の問題点について論じてくれていましたが、本作は「イノベーション」という視点からジェンダーの問題を論じています。

 

<発明>
1 車輪がスーツケースにつくまでに5000年を要した話
2 あごの骨を折るほど危険なガソリン車と安全で「女性向け」な電気自動車の話

 

<技術>
3 ブラとガードルのお針子が人類を月に送った話
4 馬力と女力を一緒にするな、という話

 

<女性らしさ>
5 融資されない偉大な発明とリスク満載の捕鯨の話
6 インフルエンサーがハッカーよりも稼いだ話

 

<体>
7 ブラック・スワンには体があった話
8 セリーナ・ウイリアムズがチェスのガルリ・カスパロフに勝つ話

 

<未来>
9 エンゲルスがメアリーの言い分を聞かなかった話
10 地球を火あぶりにしたくはない、という話

 

 

取り上げられているエピソードは興味深いものばかり。
「車輪なんて、5000年も前に作られていたのに、なぜスーツケースに車輪をつけることに最近まで誰も気が付かなかったのか」
とか、
「一番最初にガソリン車で長距離ドライブしたのは女性だった」
とか、
「月面着陸した宇宙飛行士の宇宙服を作ったのは女性下着の会社だった」
とか、
「チェスや将棋はAIに負けてしまったけど、AIがテニスで人間に勝つ日はまだまだ来ない」
とか、
「産業革命で職業を失った過去の歴史をジェンダー視線で見ると、同じ轍を踏まずに済むのじゃないか」
とか。

 

 

前作もまあ、そういう話でしたが、隘路に入りかけているように見える現代社会も<女性>という視点を加えることで突破口が見出せることができるんじゃないか…というのが論調の大筋ってところでしょうか。
男性的マチズモが固定観念として潜在的にあることのリスク…とも言ってもいいかな?
論理的思考や合理性がAIにとって変われる中で、「肉体」「身体」「共感」と言ったエリアはAIが人間を凌駕するにはまだまだ時間がかかる…と言った視点もなかなか面白いです。

 

 

何にせよ「固定観念」は、物事が大きく変容している中ではマイナスになりかねない…ってのはあります。
もちろんファスト思考/スロー思考で言われるように、それ自体が即断につながるという合理性もあるのは確かなんですが、根本のところが問われてる中で、むしろリスクの方が大きくなっている、と。
最近、いろいろなことでそのことを実感することが増えているように思います。

 

 

それだけに「女性」を強調しすぎる論調もどうですかね。
強い賛同を得やすい反面、決定的な反感を持たれてしまうリスクもあります。
そのことが「分断」をうみ、結局事態の打開に余計な労力を要するようになってしまう。(場合によっては事態が後退してしまう)
そういうことも何か増えてるような気もするんですよね。

 

 

それでもこういう考えが受け入れられやすくなる流れはあるかな。
本書は糸井重里さんの「ほぼ日」で紹介されてて手に取ったんですが、糸井さんなんか、一部からは「老害」扱いされてたこともあったようなw。
いや、ここら辺のことはよく分かんないですけど。

 

 

ま、エピソードが面白いんで、読んでみる価値はあるんじゃないでしょうか?
フェミニズムが苦手な人には無理にはお勧めしませんがw。

 

#読書感想文

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