鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「日本型リーダーはなぜ失敗するのか」

・日本型リーダーはなぜ失敗するのか
著者:半藤一利
出版:文春ウェブ文庫(Kindle版)



これは実に面白く、刺激を受ける一冊だった。
色々考えさせられることが多くて、おかげで感想をまとめるのに時間がかかっちゃって・・・ってくらい。
現時点でも整理しきれてないんだけど、あんまり寝かせてても仕方がないので、簡単にメモ程度にと思って、ようやく書き始めているとこ。



本書の中で半藤氏は、「維新」のリーダーに自らを重ねる政治家や経済人の多さに苦言を呈しつつ、現代の状況はむしろ「戦国型」のリーダーが求められているのではないかと言っている。
社会状況やルール、価値観が多様化し、確固たる権威が崩れている状況を踏まえての発言なんだろうけど、それでいて本書で語られるのは昭和軍人のリーダー論だったりするw。
ま、現代との「地続き」であり、現代の「リーダー観」の多くの部分が、日露戦争後に構成されてきた昭和初期の「リーダー観」に影響されていることを考えると、これはこれでスゴくいいんだけど、こういう仕切りをするんだったら「戦国期のリーダー論」も読んでみたかったな・・・ってのが本書への唯一の苦言w。
ま、それは「別の機会」でも構いませんが。



本書で一番個人的に驚いたのは、日本に置ける「神輿的リーダー像」(トップの人間は神輿として人格的に全体に影響を与えつつも、現場は優秀な参謀に権限委譲する・・・って感じかな)に切り込んだところかな。
こうした「リーダー像」は「西郷隆盛」を理想としつつ、日露戦争における「東郷平八郎」や「大山巌」の振る舞いによって決定づけられた感があるけど、この日露戦争での東郷・大山の「実像」が、使えられる「史実」(それを巷間に広めたのが司馬遼太郎の「坂の上の雲」)とは大きく異なることを、「坂の上の雲」以降に明らかになった資料(「極秘明治三十七八海戦史」)等から明らかにしてるんだよね。
ま、西郷隆盛も、下野から西南戦争の頃はともかく、維新混乱期においては相当の「策謀家」だったようだけど、日露戦争での「東郷」「大山」も、伝えられているような大人的なリーダーではなく、むしろ状況分析を念密に行った上で、参謀の意見を参照にしつつ、自ら検討と考察を行い、決断と指示を果断に行っている実像が本書では語られている。
「神輿的リーダー像」というのは、「創られた実像」であり、そのことによって「参謀」の優秀さを印象づけるとともに、「参謀」の過誤を隠蔽し、昭和初期の「無責任体制」による参謀の暴走に繋がった・・・ってのが半藤氏の見立てかな?
そのことを実例を挙げながら本書では丁寧に論じている。
実に説得力があると思うよ。
(確か今、半藤氏は「日露戦争史」を発表してるはずだけど、「読んでみようかな」って気にさせられた。「『坂の上の雲』で十分」って思ってたんだけどさw)



日本型リーダーがどのように「ねつ造」されてきたか、その中で「参謀」がどのように振る舞い、国を誤らせたか(その原因は何か)について論じた後、太平洋戦争における日米のリーダーを比較しつつ、半藤氏は「リーダーシップ」の要素を以下のように整理している。



1.最大の仕事は決断にあり
2.明確な目標を示せ
3.焦点に位置せよ
4.情報は確実に捉えよ
5.規格化された理論にすがるな
6.部下には最大限の任務の遂行を求めよ



いや、ホントに考えさせられました。
こうしてポイントだけを並べてると、
「よく言われてることじゃん」
って感じがするかもしれないけど、その一つ一つが如何に兵士達の生死に繋がり、国の衰亡に関わってるかということを考えると、ね。
ここら辺はマダマダ自分でも咀嚼しきれてないんだけどさ。



まあ売れてもいるようだけど、読み応えのある一冊でしたよ。