鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「事件」よりも、主人公二人の関係性の方がスリリング:読書録「天使と嘘」

・天使と嘘<上・下>

著者:マイケル・ロボサム 訳:越前敏弥

出版:ハヤカワ・ミステリ文庫(Kindle版)

f:id:aso4045:20220117165659j:image


上下巻の長編なんですが、読み始めたら、スルスル〜っとラストまで行ってしまいます。

…かといって、アクションとか、ドンデン返しの連続…って話でもないんですけどね。

 


<アイススケートで将来有望であった少女が殺される。

明るく、みんなに愛される少女であったと思われる彼女には、実は別の顔があって…>

 


扱われる事件はこんな感じなんですが、ミステリーとしては「ありがち」といえば「ありがち」。

で、その事件そのものは(多少の広がりはあるものの)<連続殺人事件>になるわけでもなく、ヒネリはあるものの、個人的にはそこまで意外性があるとは言えない決着になります。

 


じゃあ、なんでそんな話が上下巻になってて、しかも読むものをここまで引き込むのか。

 


それは一にも二にも「キャラクター」。

主人公二人のキャラクター造形と、その関係性にあります。

 


かつて自分の兄に両親と妹たちを惨殺された臨床心理士

誘拐され、虐待された過去を持ち、相手の嘘を見抜く異能力を持つ少女

 


この二人が出会い、お互いに「過去」を抱えながら、互いを認め合うようになり、「居場所」を見つけるようになる。

「事件」そのものの展開よりも、こっちの方がスリリングなんです。

二人の過去の方が「事件」よりも陰惨で異常ですし。

設定だけだと、少女の方は「ミレニアム」シリーズのリズベットを思い出させますが、本書のヒロイン(イーヴィ)は、リズベットの「強さ」を感じさせながらも、年齢以上の幼さを感じさせる「弱さ」を抱えています。

そのアンバランスさを、どうやって臨床心理士である主人公が受け入れていくか。

…物語の本筋はそっちの方かもしれません。

 


二人の間に「絆」が結ばれたところでこの物語は閉じられますが、少女の「過去」は、まだ「謎」に包まれたまま。

そちらの方は「続編」で…。

って、いやぁ、早く読ませてください!

 

 

 

#読書感想文

#天使と嘘

#マイケル_ロボサム