鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「新しい産業」として捉えるべき分野と思ってます:読書録「グリーン・ジャイアント」

・グリーン・ジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす

著者:森川潤

出版:文春新書(Kindle版)

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ここに来て「カーボンユートラル」がアッチャコッチャで声高に唱えられるようになって、

「それは分かるんだけど、ビジネスとしてはそれがどう言う風になるのやら…」

と思い、手に取った作品。

 


「カーボンニュートラル」の流れや、再生エネルギーを扱う「グリーン・ジャイアント」と呼ばれる企業の概要、気候変動と投資マネーの関連、EVの動き、原発も含めた環境がらみのイノベーションの現状と見通し、米国における政治勢力との関連性、日本の可能性

…等々、知りたいところは比較的カバーしてくれる内容でした。

端的に言えば

「日本の動きだけを見てると、世界の動きとのギャプを見落とすかもよ」

ってとこっでしょうか。

その一番の要因が「東日本大震災(福島原発事故)」ってのは個人的にも実感があります。

 


<福島原発事故という世界エネルギー史上に残る悲惨な事故を受け、日本が火力へと一気にシフトしたことは現実的に唯一の選択肢であり、火力発電が間違いなく、その後の日本の安定供給を支えてきたことは歴然たる事実である。ただ世界を見ると、この日本の火力シフトの時期は、まさに世界がパリ協定へと向かっているタイミングだった。そんなタイミングに、日本では自国特有の事情を重視するなかで「安定供給のためなら脱炭素は後回しでいい」もしくは「本気で脱炭素したいなら原発を動かす」というスタンスが支配的になったことも、重要な事実として指摘しておきたい。>

 


そのマインドセットも見直されつつある…ってのが日本の現状でしょうか。(良し悪しは別として)

 

 

 

僕自身の興味は、

「コロナ禍を受けて、世界全体が<積極財政政策>に舵を切らざるを得なくなった現状、方向性として<グリーン・ビジネス>が受け皿の一つとなる<新しい産業>として位置付けられているのではないか」

と言う点です。

ケインズ的には積極財政の受け皿は「穴掘り」でもいいのかもしれませんが(ヘリコプター・マネーでも)、そう言う在り方が産業構造や所得のあり方に歪さを生んでしまう可能性は見落とせないので、こう言う「方向づけ」はあり得るのかも…と考えています。

意味のない仕事が「ブルシット・ジョブ」として、たずさわる者の精神を蝕む…という指摘もありますしね。

 


もちろん、「グリーン・ビジネス」が本当に「気候変動」への対処となり得るのかってのはあります。

「気候変動」への人間活動の影響度合いについて疑義がある点も承知しています。

僕自身はその点は「分からない」と言うのが正直なところ。

ただ「ヘリコプター・マネー」の行き先としては「マシなんじゃない?」って気持ちはあります。

 


<現在、各国政府のカーボンニュートラルの取り組みは、脱炭素を経済成長につなげることが前提になっている。「バイデン政権の気候対策は、あくまで脱炭素が経済成長に寄与できる限りは全力コミットするというものだ。そこはプログレッシブと歩調を合わせているように見えて、明確に線引きしているはずだ」と、米国との交渉を担当する政府関係者は話す。 

しかし、もしも気候対策が経済成長と両立しないということがわかってきた場合、資本主義の世界はどっちに転ぶのか。例えば、ビル・ゲイツはその現実の厳しさを見据えた上での「楽観主義」を打ち出しているが、実は、この先はまだ誰にも見えていない。>

 


その向こうには、こう言う懸念も確かにあります。

ただコロナ禍からの回復と継続的な成長を担保する上においては、(ばら撒いた資金を<成長>で埋めうる)「新しい産業」が必要だという見通しが各国政府にはあるんじゃないでしょうか。

その「新しい産業」の創造をする上において、「グリーン・ビジネス」が各政治勢力の合意を得やすい分野である…ってのは現状においては確かなのではないか、と。

だからこその世界を上げての「カーボンニュートラル」宣言。

トヨタがEVシフトを打ち出したのも、そう言う世界の兆候を踏まえてのことだと捉えています。(トヨタのメイン市場はそもそも海外ですし)

 


まあ、足元は結構不確かかもしれませんけどね。

昨年末の世界のエネルギー情勢なんかも、「再生エネルギー」に対する疑念を抱かせるものはありました。

日本の場合、「原発」ですわな。何より。

ここの議論をしない限り、「カーボンニュートラル」なんて、絵に描いた餅ですわ。

 


ただまあ、「できない」理由を念仏のように唱えてても、何も変わるわけじゃありません。

 


<気候変動やエネルギー問題をめぐる議論では、日本では必ずといっていいほど、「再エネには限界がある」「高効率の石炭でも脱炭素の役に立つ」「欧州が得するだけの仕組みだ」などの批判意見が飛び出し、多数派を占めることも少なくない。そうした意見はもちろん正しい部分を含んでいるのだが、ダイナミズムという観点でいえば、確実にイノベーションを阻害している。なぜなら、日本からは「未来を作る側」の企業や人物がほとんど登場していないからだ。>

 


この「ダイナミズム」をとり入れるために、一歩踏み出す勇気こそが求められるんじゃないか。

それが読後の感想になります。

 


難しいけどね。

 

 

 

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