・アンダーグラウンド・マーケット
著者:藤井太洋
出版:朝日文庫(Kindle版)
「ハロー・ワールド」「東京の子」に先行する藤井太洋氏の「近未来」小説。
ま、「2018年」は終わっちゃいましたけど(本作の出版は2015年)。
東京オリンピック前。
人手不足対策として移民を受け入れた「日本」において、仮想通貨(N円)の普及によって「地下経済」が広がり、経済格差による分断も生まれている…
と言う「設定」だけを「未来予測」という点から評価すれば「外れた」と言ってもいいかもしれないけど、そのタイムレンジを5年か10年ズラしたら、
「あり得るかもね」
と思わせるところが藤井太洋作品の面白いところ。
その中で自分の「腕」で<自由>を手に入れ、生きるために駆け抜ける主人公たちの姿は頼もしく、希望にも満ちている。
そこで描かれる「社会」はデストピアかもしれないけど、そこで生きる人間が「虚無」に堕ちるとは限らない。
藤井さんは、そう語り続けてるように思うんですよね。
まあ僕はこの作品に登場する「旧人」に属する<斎藤>にも<城村>にもなれないヘタレですが、やっぱり「未来」は主人公たちのようなバイタリティのある若者たちにあると思いたいですね。
もうちょい「社会」の方はモデレートに変化して欲しいとは思いますがw。
物語の構図としては「ハロー・ワールド」「東京の子」と重なるところが多いとも言えます。(例えば「東京の子」の「パルクール」が、本書では「自転車」になって、主人公の肉体性を支えています)
でもこう言うのが僕は読みたいんですよ!
…と言うわけで、個人的には大満足の一冊でした。