鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

311の宿題:読書録「ワン・モア・ヌーク」

ワン・モア・ヌーク

著者:藤井太洋

出版:新潮文庫

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本書の舞台は2020年3月。

出版は2020年2月。

解説によると連載は2015年〜2017年とのことです。

 

連載時には「近未来」だったけど、出版時には「リアルと並行するタイムテーブル」だった訳ですね。

それが「狙い」だったのは間違いない。(ヤマは「3月11日」)

…でもまさか「現実」がこうなろうとは!

本書でも焦点の一つとなっている「東京オリンピック開催」は、「現実」の方で延期が決定してしまいました…。

 

じゃあ、本書が面白くなくなったかと言うと、全くそんなことはない。

まず「物語」として圧倒的に面白いです。

女性日本人テロリスト、イスラム国テロリスト、CIA、日本警察…

三つ巴、四つ巴の裏切り、裏をかきあっての追いかけっこは実に読み応えがあります。

スケール感も、作者特有の科学的な裏付けも実に楽しい。

「エンターテインメント」として極上の時間を過ごすことができます。(「但馬樹」は秀逸なキャラです)

 

そして読者への「問い掛け」。

 

新型コロナウイルスで作者が意図した「仕掛け」は現実に裏切られてしまいました。

しかしそこに込められた「問い掛け」は、「今」我々に「現実」のなかで突きつけられているものとオーバーラップします。

 

「311の宿題」

 

今、僕たちはその成果を問われています。

 

一言で言えば「説明責任」であり、「科学に対する理解」であり、「他者に対する想像力」であり、「自分の頭で考え、自らの責任において行動する」ことであり…。

 

<都民だけでも六百万人、心理的には首都圏の三千万人が被災者になる状況で、恐怖を煽る言葉を封じるのは難しい。

それを防いでみせろと但馬は言っているのだ。医師、核物理学の専門家、放射線技師だけでは足りない。画家も、文章を書くものも、一般市民も巻き込んだ対話の場を作るにはどうすればいいだろう>

 

デジタルトランスフォーメーションだって、地方自治主体の政治・行政だって、本当は「311」後の世界の中で日本でこそ積極的に取り組むべきことだったはず。

それを怠ったつけを「今」見せつけられている思いです。

 

まずは「今」を乗り切ること。(それだけでもシンドイ)

その先、「アフターコロナ」の世界でもう1度僕たちは「311の宿題」に取り組まなければいけない。

…そんなことを考えました。

 

いや、エンタメとして無茶楽しめるんですけどねw。