・キャッシュレス国家 「中国新経済」の光と影
著者:西村友作
出版:文春新書
中国で大学教授をされている作者が、現在の中国都市部で広がっている「キャッシュレスサービス」の実態や、スマホを中心とした新しいビジネスの活況状況を、具体的に紹介してくれる一冊。
サービスには結構外国人が使えないものも多いらしくて、そこらへんは自分の講義を受けている学生なんかにも教えてもらいながら紹介してくれています。
この具体的なところが、まずイイですね。
断片的なところは知ってることも少なくないですが、それがコレだけ広がってて、かつアレもコレもと次々出てきてる様子には、やっぱり圧倒されます。
それに加えて、個人的には「中国の資本主義戦略」と言う観点でも面白かったです。
これはたまたま並行して読んでいる「アダム・スミスはブレグジットを支持するか?」で、シュンペーターの章を読んだところだったから。
<イノベーションは経済成長のエンジンであり、ヨーゼフ・シュンペーターが述べたように、資本主義経済におけるイノベーションは「永遠に続く創造的破壊の嵐」である。シュンペーターの見解では、新技術の導入とともに経済は長期的に循環し、そのいっぽうで既存の技術は陳腐化していく。そして、この新技術こそが経済成長を促進しているのだという。>(「アダム・スミスはブレグジットを支持するか?」第七章)
この「資本主義エンジン」としてのイノベーションを、中国は「国家として」誘導しているのではないか…と言うことですね。
<「創発」(イノベーション)
2017年10月、中国共産党第19回大会の約3時間半にもおよんだ開幕演説で、習近平国家主席が57回も口にした言葉である。特に経済分野においては、「イノベーションは発展をリードする第一の原動力であり、現代化経済システムを構築する上での戦略的支柱である」と強調した。>(本書)
「創発」のことは新聞記事で読んでましたが、その時の印象は、
「経済成長率が落ちてきたから、他のところに目を逸らそうとしてるんちゃうん?」
くらいの印象でしたが、シュンペーターの主張を考えると、マジで「資本主義エンジン」を稼働させようとしてるのかもしれん。
共産主義国家が。
しかもシュンペーターの時代には「製造業」がメインだったものが、今の先進国では「サービス業」がメインとなっている(「アダム・スミスは〜」においても、ここら辺の産業構造変化の読み替えは重要ポイントの一つです)。
本書で事例としてあげれらている「スマホ」や「キャッシュレス」を各とした「新ビジネス」の多くは「サービス業」です。
とすると、中国がやろうとしているのは「サービス業におけるイノベーションをエンジンとした資本主義の発展」…と言う新たなステージなのかも…。
まあ「信用保証システム」に対する気持ち悪さとか、共産党独裁の不透明さ・恣意性への懸念なんかはやっぱり拭えませんが、「国家」としてかなりチャレンジングなことをやろうとしてるのは確かじゃないかな〜と。
13億とも14億とも言われる巨大な国内市場が、その「実験」を可能としてると言うのもあります。
(「実験」は失敗する可能性もあって、それが「文化大革命」の悲劇だったりするわけですが、今回の実験は「資本主義の推進」として行おうとしている分、悲劇的失敗の公算は低いような気がします(経済の分野では))
どうなるかは分かりません。
でも「数多くの失敗の中からイノベーションを生み出し、資本主義を推進する」という「資本主義の王道」を中国が進めようとしているのは確かじゃないかなぁ。
<中国流ビジネスモデルが日本でコケるワケ>
https://president.jp/articles/-/28651
こう言う記事も分かるし、頷けるところもあります。
ただそれ以外の視線も必要なんじゃないか、と思う次第。
じゃあ、日本の状況が悲観的かと言うと、そう言うところに気がついて、そこを突破しようとする動きも見えて来てはいるように思いますがね。
問題は「スピード感」。
これは毎度の話。
キーは「5G」ですな。(だからファーウェイを巡って米中が…ってのも)
楽しみでもあり、不安でもあり…。