・ユーチューバー
著者:村上龍
出版:幻冬舎
「私は、あなたたちが信じられないようなものを見てきた。
オリオンの肩で炎上する戦闘船や、タンホイザー・ゲートの近くの暗闇で光るC-光線などを。
これらのすべての瞬間は、もはや失われる。
雨の中の涙のように。
…その時がきた。」
「ブレードランナー」のルドガー・ハウアーの台詞。
人の死と共に、その人の経験や記憶は、それがどんなに貴重なものであったとしても、この世界から失われていく。
世界は、彼を失っても、何事もなく進み続けていくのに…。
40代くらいまでは、そんなことを考えると、足元に大きな穴が空いて、その穴の中の闇に堕ちていくような気持ちになることがありました。
今でもそういう想いにとらわれることもあるんですが、それよりも、
「まあ、そんなもんだよな」
って、ちょっとした諦観みたいなものを覚えることが多くなってますかね。
本書を読み終わっての感想も、そんな諦観に近いところがありました。
村上龍「最新長編小説」
…ってウリになってるんですが、「長編小説」なのかな、これ?
ユーチューバー(書き下ろし)
ホテル・サブスクリプション(文學界)
ディスカバリー(新潮)
ユーチューブ(文藝)
…と色々な文芸誌に発表した短編+書き下ろしをまとめた作品です。
まあ、どの作品も作者の分身的存在である「矢崎健介」を中心人物とした作品になってるんで、まとまりがあるっちゃああるんですけどねぇ。
どの作品でも「矢崎健介」は喋りまくっています。
帯では「自由希望そしてセックス」とあって、まあ確かに健介はそういう話をするのですが(ユーチューバー)、他の村上龍作品にあるような強烈なインパクトや活力につながるわけでもなく、ただ話すだけ。
「ユーチューバー」では発言内容がAI等でのチェックに引っかかるんじゃないかと気にしながら喋ったりもしてて、彼が語る経験(それは他の村上龍作品に描かれたものをなぞっています)の社会通念からのハズレ具合を考えると滑稽な感じもします(それが狙いでしょうがw)。
YouTubeで自分の経験譚をする矢崎健介(ユーチューバー)
ユーチューバーと矢崎の出会い(ホテル・サブスプリクション)
矢崎と一緒にいる女性の鬱屈と彼女からみた矢崎(ディスカバリー)
YouTubeを見る矢崎の独白(ユーチューブ)
矢崎健介はダラダラと語り続け、その内容には一聴の価値があるのかもしれないんだけど、ただただ矢崎から流れ出ているだけのように読めちゃうんですよね。
そういう姿が1冊にまとまっているというか…。
村上龍(矢崎健介)も70歳を超え、いずれはこの世を去る。
もちろん彼の作品は残るし、彼の映像や語りも(テレビ番組のMCをしてるし)数多く残される。
でも「村上龍」という存在がなくなることは、彼がいくら何を残しても、その喪失を埋め合わせるものではない。
そこには大きな穴があり、闇がある。
…でもまあ、
「そんなもんだよな」。
なんだか、そんな気分になっちゃったんですよね〜。
それが本書の狙いかどうかは僕には分からないんですけど。
僕は嫌いじゃないですね。この本。
一般的には評価されることはないような気もしますがw。
(「カンブリア宮殿」見てると、最近、喋りが随分とキツくなってきてるようだから、作品の自分の分身に思い切り喋らせてみた…ってだけの話だったりしてw)
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