鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

現実の問題としては「組織の官僚化」がネックになるんじゃないか、と:読書録「ゼロからの『資本論」」

・ゼロからの『資本論』

著者:斎藤幸平

出版:NHK出版新書(Kindle版)

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格差と分断が進む現代社会の課題を解決するために、新しい切り口から「コミュニズム」を提案する作品。

出版された「資本論」(エンゲルスがまとめたもの)だけではなく、草稿やノート等、残された資料の解析も踏まえた最新の「マルクス」研究の成果から、マルクスの思想を解説し、現代に問いかけるような形になっています。

ベースになってるのはNHKの番組「100分de名著」のようです。

 


現状の政治や大企業のあり方なんかに対する批判の部分は、なんだかコメンテーターみたいでちょっと鼻白らむ感じも個人的にはありましたが、最新の研究成果から見た「マルクスの思想」ってのは、なかなか興味深く読めました。

ソ連や中国とかの、実現した「社会主義国家」を、マルクスの思想からどう位置付けるかとか、ベーシックインカムやMMT、福祉国家の評価と批判なんかも、うなづけるものはありました。

 


<コミュニズムでは「構想と実行の分離」がなくなり、固定的な分業もなくなります。利潤追求のために無理やり生産性を上げて大量生産するというようなこともやめるわけです。  

それでも、資本主義が生み出す浪費、独占、民営化がなくなれば、社会の「協同的な富」は万人にとって「豊かに湧きでるように」なる。マルクスが構想した将来社会は、コモンを基礎とした〝豊かな〟社会です。ここでいう富の豊かさとは、生産力をひたすら上げていった先にある単なる物質的な豊かさではありません。それでは、「ブルジョア的権利の狭い視界」にいつまでも囚われたままでしょう。そうではなく、ワークシェア、相互扶助、贈与によって脱商品化された〈コモン〉の領域を増やしていくことで、誰しもに必要なものが十分に行きわたるだけの潤沢さを作り出すのです。>

 


マルクスが目指した社会を作者はこう描きます。

「社会の共同的な富=コモン」が社会の中心となる社会…ってところでしょうか?

ここら辺は最近の「左派」的なスタンスが重視するところではあります。

 


そして、その社会を支える活動の中核としてマルクスが考えたのだろうとされるのが「労働者協同組合」。

 


<マルクスが念頭に置いているのは、労働者協同組合です。  

実は、 2022年 10月に、日本でもついに「労働者協同組合法」が施行されました。でも、まだあまり知られていないので、その理念を少し説明しておきましょう。  

協同組合においては、構成員の労働者たちは、自分たちで出資し、共同経営者となります。そうすることで、労働者は自分たちで能動的に、民主的な仕方で、生産に関する意思決定を目指します。資本家たちに雇われて給料をもらうという賃労働のあり方が終わりを告げ、自分たちで主体的、かつ民主的に会社を経営するようになるわけです。>

 


こういう「中間的組織」「中間団体」が担う役割を重視するのは、少し前に読んだマイケル・リンドの「新しい階級闘争」でも言及されていましたね。

<コモン>の範囲を広げて行く以上、政府や企業とは違う、構成員の意見が反映される組織が重視されるって言うのは、論理的帰結なのかもしれません。

 


斎藤さんの主張は「脱成長」でもあるので、それに対しては「そうは言ってもない袖は触れない」って反発もありますが(この点への斎藤さんの反論はもちろんありますし、それは<コモン>の概念にも繋がります)、それを云々する以前に、僕は<コモン>を担う「中間的組織」「中間団体」が、本当に期待されるようにワークするのかってことの方に懸念を感じてしまいます。

 


いや、5、6人の団体とか、10数万人の市や町の自治体なら「やれるかも」とは思いますよ。

でもそれを「国家」と言う枠組みに広げた時、本当にワークするんでしょうか?

それだけの規模の活動を担う組織となった時、ソ連や中国が陥ったような「官僚独裁」的な組織になってしまうリスクは回避できるんでしょうか?

そのリスクを回避するための組織的な仕組みはどうあるべきなんでしょうか?

今の「日本共産党」は斎藤さんの考える<コミュニズム>とは別物だとは思いますが、それでも志位委員長をめぐる昨今のゴタゴタなんかを思い出すと、<コモン>と言う概念とは別に、しっかりとした「組織論」が裏付けとして提示されないと、活動としての<コミュニズム>に賛同する気にはなれません。

 


格差と分断が現代社会の最大の課題であることについては僕も賛同します。

<コモン>という概念の重要性にも共感できます。

その上で、

「じゃあ、そうすればいいのか」

それを語るべきタイミングなんじゃないか…と言うのが僕のスタンス。

その観点からは物足りないところがあるなぁってのが正直な感想です。

マルクス研究の最新報告としては興味深かったですけどね。

 

 

 

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